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日中は子ども達と過ごすので、当然煙草は吸わないし、そもそも吸う暇も無い。
なので喫煙欲求に加速がついたのか、中野祐実と落ち合った営火場においてもベンチに座った瞬間に俺は煙草に火を点けた。
「珍しくね?祐実ちゃんから話したいなんてよ。」
俺は中野祐実を見ずに言った。
防犯灯に斜め上から照らされた中野祐実は本当に美しい。
「いやいや、もうあたし達も中三かと思うとね、なんだか少し先輩と話したいわけ。」
「何を話したいのよ?受験のこと?それともその先か?」
中野祐実はフンと軽く笑った。
そして少し疲れた笑みを浮かべて首を横に振った。
「いや、ずーっと一緒だった加瀬ちゃん達とも綾ちゃんともバラバラになっちゃうんだなってさ、思うわけ。彪流さんもそうだったでしょ?」
「あぁ、◯◯工業高校行ったのはウチん中学から俺とあんま話したことない女子と二人だけだったからな。やっぱ友達も中々出来なかったよね。」
やはり中学校の繋がりは重要だった。
それを知ったのは高校生一年生の一学期だ。
自分がいかに昔からの仲間から大切扱われてきたのか、自分がいかに人付き合いというものが分からなかったのかをとことんまで知る羽目になった。
部活を始めなければ高校生活は地の底の底まで落ちていたことだろう。
その重要性と後悔を中野祐実に語った。
「そうなんだ…。やっぱちゃんと勉強しとくべきだったネ…。加瀬ちゃん達は二人ともずば抜けて頭良いし、綾ちゃんはあたしとおんなじくらいだけど、隣町のいい私立に行くみたい。あたしん家あんま裕福じゃないからさ。そんなとこ行けないしね。」
「…。」
分かる。
中野祐実の言いたいことは心底理解できる。
俺も就職ではなくできることなら陸上競技で大学に行きたかった。
その傍らで音楽をやりたかった。
しかし結局子どものやりたいことを自由にやる為には親の経済力が必要不可欠なのだ。
現代でもそうだ。
やりたい事で生きていく為には、サラリーを得ることができるようになるまでの空白の期間を養ってもらえる環境が必要だ。
当然アルバイトや日雇いをするのが条件だろうが、やはり最後の砦が存在するのとしないのとでは違う。
それを中野祐実に話をした。
真剣に、おふざけ無しで語った。
「だけどね、そんな状況を支えてくれたものがあるんだよ。」
俺は二本目の煙草に火を点けた。
涙ぐんでいる中野祐実がどうにも艶めかしくて、抱き締めたい衝動に駆られる。
「支えてくれたもの…?」
あぁ!もう小首を傾げんなよ!!
可愛すぎんだよ!!この野郎!
…と、叫びたいところだし、マジで人目をはばからずに抱き締めたいところだけど俺はもう社会人である。
学生時代の過ちと済まされる立場ではない。
「部活の仲間、それとお前らだよ。」
「…?」
中野祐実は傾げた首をもう一段階傾けた。
俺は煙草吸い込み、もう一度言った。
「部活の仲間、苦楽を共にした部活の仲間だ。それと楽しい時間と楽しい思い出をくれたお前らだ。加瀬ちゃん達、綾子ちゃん、祐実ちゃん、お前らだ。」
「あたし達が…?彪流さんを?支えた…?」
中野祐実の目から光り輝くものがツーッと流れてきた。
ちょ、あの、その、いや、てめ、おま、この、あれ、…か、か…わ…いい…。
え?キモい?
何とでも言ってくれ。
この時分キモいとか言われたらショックで夜しか眠れねぇが、今キモい言われてもありがとうございますとしか言えねぇわ。
話を戻す。
「そ。だからまぁお前らが中学校卒業する時に言おうと思ったけど…感謝してるよ。ありがとう。なんかよく分かんないけど…なんかその…いっつもついて来てくれてありがとうな。それに祐実ちゃんなら大丈夫だ。こんだけ皆んなから慕われてるし、その活躍を間近で見てきた俺が言うんだ。間違いない。すぐに友達くれぇできるし、間違いなく高校生活は楽しいものになる。心配すんなよ。」
真剣な俺がよほど珍しいのか中野祐実は涙を流しながら俺の顔を見つめてきた。
愛ちゃん事件の前なら間違いなく唇を奪うところだが俺だって学ぶんだ。
我は獣にあらず、我は人類なり。
「そっか…あたしも…役に立ってたんだね…」
中野祐実は人差し指で涙を拭った。
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