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俺は元々自己肯定感が著しく低い初期設定だったらしい。
それを高めるアップデートをしてくれたのは間違いなくこのボランティア活動だし、そのアップデートを滞りなくこなしてくれたエンジニアこそ、この四人娘であることは言うまでもない。
「そっか…あたしにもできる事がある…あったってわけか…。」
「そう、だから研修の時に言ったろ?自信は持たなくていいから堂々と活動しろって。おんなじだよ。高校受験も高校生活もさ。覚えてくれてっか知らねぇけど。覚えてる?」
俺は中野祐実の顔を覗き込んだ。
そしてわざとらしく近付けた。
べ、別に向こうからチューしてくれてもいいんだから…なんて思ってねぇからな!
ホントだZE☆
「覚えてるよ…あたし達皆んな…覚えてる…」
「そっか…」
あ、チューしてくれないんだ…なんて思ってねぇからな!
MAZIDAZE☆
「さっきも言ったけど大丈夫だ。祐実ちゃんなら大丈夫。」
俺はそう言いつつ、耳を澄ませると子ども達の声がまばらになってきている。
ぼちぼち眠りにつく奴らが出てきたか。
こういう時やっぱ最後まで粘るのは決まって頭悪そうなきったねぇ男ん子なんだよな。
「さ、寝なよ。明日早起きだぜ?」
「んん。もう少しこうしてたいけど…でも早起きか…ねぇ…煙草…もう吸わないの?」
「何で?」
「煙草もう一本彪流さんが吸い終わったら…大人しくテントに戻るよ。」
俺は頷き、ポケットから煙草の箱を取り出して口に咥えようとした。
すると中野祐実は俺の口から煙草を取り上げたのだ。
「まぁだだよ。ね?さっき消したばっかり。」
こいつ幾つだよ…。
こりゃお前…もうワンセットおねだりする時のキャバ嬢様じゃねぇか…。
そりゃ昔入社してから初めて連れていってもらったキャバクラはそりゃとんでもない刺激だったからな。
こんな綺麗な女の人がテレビの中以外に存在すんのかいと衝撃を受けたもんだ。
中野祐実が着飾り、その世界に飛び込めば中々の売り上げを誇るのではないだろうか。
知らんけど。
結局それから三十分程度中野祐実の話を聞いてようやく俺は自由となった。
嫌な時間ではなかった。
むしろ職務放棄して朝まで語り尽くしたい思いもあった。
俺も野郎どものテントに戻ると伊原はいびきをかいていた。
木下はゴロゴロと転がりながら週刊誌を懐中電灯で照らして読んでいた。
「遅えなぁ。彪流くん、あれだろ?祐実と話してたんだろ?」
「声でけぇよ。消灯時間過ぎてんぞ。」
「◯◯小学校の出身のあの四人、彪流くんの事めちゃくちゃ尊敬してんもんな。なんかこう、気持ち悪いくれぇだよ、マジで。二言目には彪流くんの話だ。」
初耳だ。
嬉しい反面、彼女達の前で浅はかな行動はできないと思い、今までの行動を反芻した。
口では尊敬している等と言ってはいたが、本人は何とでも言える。
こういう時は人の言っていることの方が信憑性があるというものだし、信じたい気持ちが強くなる。
「彪流くん、あんたあの四人のことどう思ってんの?」
「…。」
こういうヤンキー連中って頭悪いくせに妙に察しが良い奴が一定数存在する。
だからヤンキー連中の一部は大成するんだろうな。
察しが良い上に人に取り入るのが上手いというのはビジネス、商談なんかじゃ有利なんだろうからな。
木下も多分その類の奴だ。
「それをおめぇが知ってどうする。」
「いやぁ…何もねぇよ?気になっただけ。」
「…。」
「誰かは分かんねぇけど、誰か好きだろ?なぁ彪流くん。」
木下は懐中電灯を消して寝返りをした。
「内緒だ。寝ろ。」
「はいはい、俺と彪流くんの仲なのに…冷てぇな…。」
「おやすみ。」
「フンッ…。」
木下と恋バナなんて気持ち悪くてできるか。
でも、やっぱこの時しっかりと話して置くべきたったか。
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