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誰も起きていない朝四時、俺は起きると管理棟の横にある灰皿の横に立ち煙草を吸っていた。
中途半端な朝焼けを披露する夏の空に向かって紫煙を吐き出していると、走馬灯のようにこのボランティアで起きた様々な出来事が思い出されていく。
「綾子…か…。どちらにしろ…もうあんまり会えなくはなるわな…。」
迷いと愛ちゃんの出来事が俺の行動を止めてしまっている。
しかし、時は流れていくものだ。
このまま放っておけば確実に四人娘との付き合いは絶たれていく。
ましてや四人とも見事な容姿で人懐っこい性格ときている。
すでに色恋沙汰に巻き込まれているかもしれない。
煙草がいつもより苦く感じるのははっきりしない自分への苛つきが舌に作用しているのかと理由のわからない思考に溺れていく。
「言わなきゃ。いずれどうせ絶たれる関係なら言わなきゃ。」
ここまで考えこまなきゃ行動を決心できない男、ここだよな。
そういうとこやぞ。
散々言ってきていることだが、容姿が優れなければきっかけすら掴めないのである。
相手の行動に委ねることができるのは、容姿が優れている者のみの特権だ。
アレだよ、「ただしイケメンに限る」というヤツだよ。
容姿が優れないと自分で思っているならば、「I love you連発する渚の狼BOY」になるしか「あー夏休み」する方法はないのである。
「派遣はもうコレで終わり…もうお呼ばれしている体育祭でしかコイツら…綾子にも会えないっつう事か…。ならもう…いっそのこと…。」
俺は行動を起こすのが著しく遅いくせに、行動を起こすと異常なまでに猪突猛進となる、典型的な事故るタイプである。
コレホント自分で大嫌いな部分なのよね。
息子がこのタイプで、行動を起こすまで周囲を激しく苛つかせて、行動を起こす心配ばかりかける。
独り言をブツブツと呟いていると中野祐実がやって来た。
副流煙上等の時代ですわ。
「早起きだな。」
「うん、早起きしちゃったからさ。ついでにラジオ体操用のアンプ取りに来たの。でもこの時間じゃまだ管理棟開いてないか。」
「感心だな。アンプ重いだろ?五時に管理棟開くから俺持ってってやるよ。」
「ホント?ありがと。」
俺は中野祐実を見ずに、会話をした。
自分の思考を中野祐実は見透かしてしまいそうだと思ったからだ。
「何か飲む?奢ったるよ?」
「いや、いい。大丈夫。」
「そっか。ところでよ、ちょっと聞きたいんだが何でまた俺に体育祭見に来いってなったんだ?」
俺は中野祐実と目を合わせないようにして煙草を消した。
「いや、なんとなく…。別に深い意味はないよ?ただなんとなく…彪流さん来たら面白いかなってだけ。」
「ふぅん…。なんか保護者な気分よな。保護者は言い過ぎか。なんか…俺、兄貴しかいないからさ、…妹っていうか、妹のを見に行くって感じかな。」
「妹か、そうだね。あたしも彪流さんはお兄さんだと思ってるよ。大体こんな年上の人なのに超タメ口だしね。」
中野祐実は片手を口に当ててプッと吹き出した。
「そう。お前らは大事だよ。大事な…大事な妹だ。」
俺は会話を始めて数分、初めて中野祐実の顔を見た。
中野祐実も俺の顔を見ていた。
どんな感情だ?
不思議な表情だ。
しかしこれ以上の会話は無かった。
だが不思議と無言の空間も不快ではない。
俺は妙な気配を感じながらも、微弱なそれを意に介さずに決戦を心に誓った。
もう待てない。
待たなくていい。
決戦は…
決戦は…
決戦…
この日、このキャンプから帰ってからだ!!
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