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キャンプから帰宅した俺は入浴を済ませて、寮の部屋に居た。
冷房が唸り上げる部屋の中でぼーっと立っている。
「電話をする、ただそれだけだ…。」
俺は自分に言い聞かせていた。
幸運な事に下田綾子は個人のPHSを手に入れていた。
夏休み前の定例会でそれを知り番号を交換していたのだ。
中学生にしてポケベルを飛び越えてPHSか…。
さっすがセレブ。
そんな中学生相手に、PHSの番号を聞くのもドキドキしちゃうのもどうかと思うけど。
「おっふ…yeah…その…PHS買っtongueだぁ~、い、一応sir…ドュフ…派遣要請回らない時連絡cityほCからsir、番号交換shocker…」
みたいに超挙動不審してたっスね。
社会人が。
中学生相手に。
どう思いますか。
今考えるとよく警察さんにお世話にならずに済んだよな…。
話を戻す。
迷いはもう無い。
なぜなら俺は前述の通り「猪突猛進バーサーカーモード」である。
俺は自分のPHSを手に取り、電話帳を開いた。
「シモダアヤコ…」
考えてみれば番号を教えてもらってから電話をかけるのは初めてだ。
俺は発信ボタンを押した。
さすがはバーサーカーモード。
普段からこんだけ行動的だったらあるいは…とこの年齢になり思うところだ。
数回コール音がして下田綾子が電話に出た。
「もしもし…?」
不安、恐怖、緊張?
少し影があるような声だ。
なぜだ?
「もしもし、俺だけど…。」
「彪流さん、帰ってきたの?お疲れ様。」
「うん。寮に戻って風呂入り終わって片付け終わったところだよ。」
「そっか。お疲れだったね。んでどうしたの?」
「…。」
随分と要件を聞くのが早いな。
心構えは出来上がっているつもりだったし、バーサーカーモードだから大丈夫といえば大丈夫なんだが…。
「彪流さん?」
無言の時間を作ってしまい、不安にさせてしまった。
ラジオパーソナリティなら減給もんだぜ。
知らんけど。
「あ、あぁ…あのさ…勉強…大変だろ?」
「うぅん、あたしあんまり頭良くないからさ。隣町の私立単願で受ける予定だよ。正直あんま勉強してない。ンフフ…」
下田綾子が笑ってくれたおかげで俺にも加速がついてきた。
「息抜きしねぇか?」
「息抜き?勉強してないけどそりゃまぁしたいよ?」
「息抜きしようや、俺とさ。」
「彪流さんと?どうやって?何すんの?」
「…ったる…」
「え?樽…?」
「…。」
「おーい、彪流さん?」
「…。」
「もしもーし。」
やばい。
声が…声が出せない…。
『言わないで終わるのか?言って終わるのか?どちらにしろこのまま放っておけば自然に四人娘とは終わりとなるだろう。』
下田綾子…
初めて会ったのは下田綾子が所属していた子ども会に俺が派遣で行った時だ。
それからお前は俺の後を追うように、研修会を経て団体に属した。
子どもだったお前は…立派なお姉さんとなり、子ども達から慕われて…立派で…綺麗で…可愛くて…
いい女になった!!
「綾子ちゃん、俺と飯食いに行こう。奢ったるからさ。」
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