斬首…

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ファミレスに行く約束をした。 ファミリーレストランだ。 文句あるか? おぉ…?なんやぁ?コラァ…ファミレス舐めとったら怪我ぁすんどオラァ…。 キャン言わしたるぞ?小童がぁ…。 日本の誇りだ。 どこの店舗で食べても同じメニューの同じ味。 メニュー豊富で安くて旨い。 ラーメンが食べたいお父さんも、和食が食べたいお母さんも、ハンバーグが食べたいお坊ちゃんも、パスタが食べたいお嬢ちゃんもみぃい〜んな幸せになれる、それがジャパニーズファミリーレストランだ!! 『皆んなで食べると美味しいね』 イエス!ジャパニーズファミリーレストラン!! オホン。 ライターのお仕事承ります。 ちなみに学と品性はありません。 金も無ぇっス。 信頼と実績ともにありません。 期限と約束は守りません。 話を戻す。 高卒で仕事始めたばかりの若造と中学生の食事だぞ? ファミレスが身の丈に合ってんだろ。 俺は車を走らせて下田綾子の家の前で待機した。 まぁ大きな家だこと…。 約束の時間のちょうど十分前、俺は下田綾子のPHSに電話をかけた。 「あ、もしもし?彪流さん?着いたの?」 「うん、家の前に車停めてるよ。慌てなくていいから。」 あくまでも紳士的で余裕のある男を演じる。 そう、「演じる」のだ。 約束を取りつける為に電話をした時よりも下田綾子の口調は随分と落ち着いている。 なぜだろう? 俺に好意を抱いているならば会う時の方が緊張したりするもんじゃね? 否、俺と同じだろう。 彼女は彼女で俺と同じでバーサーカーモードになっているのだろう。 俺は一人で納得して煙草に火を点けた。 安いライターを点ける手が震えている。 「不味いな…」 俺は煙を吐き出しながら顔をしかめた。 そりゃ俺の口に合うわけがない。 マルボロを愛煙している俺の口にパーラメントなんて合うわきゃねぇだろ。 平成初期男子あるあるだと思うんだが、女の子とデートする際にちょっといい煙草にしたりするヤツ。 え?全然あるあるじゃない? マジ? まぁいいや。 考えてみりゃこの時かなり非常識なことしてるよね。 中学生の女の子の家に車で迎えに行くまでは良いとして、車の窓開けて煙草吸っちゃってんだからさ。 親御さんが見たら射殺したくなるだろうな。 煙草を半分くらい吸い終えたところで下田綾子が玄関から出て来た。 ぴっちり目で紫色のTシャツと少しだぶついたジーパン、そして鼠色のシックなスニーカーという出で立ちだ。 ぴっちり目のTシャツは豊満な乳房が強調されて目のやり場に困る。 おまけにTシャツの丈が短いのか、豊満な乳房に引っ張られているのか、へそがちらちらと顔を覗かせている。 ひらひらと軽く右手を振りながら俺の車に近付き、運転席の俺に話しかけてきた。 「彪流さん、迎えありがとう。現地集合でも良かったのに。」 満面の笑みが夏の夕方の赤みを帯びた空気に照らされて、色白の下田綾子を健康的な美しさに変化させている。 「いや、大丈夫。隣、乗んなよ。」 俺は慌てて煙草を消して、空調を強めた。 「お邪魔しまぁす。」 下田綾子は助手席に乗り、シートベルトを着用した。 あぁもう…その…胸の真ん中を走るシートベルト…これほどシートベルトになりたいと思った事は無い。 後にも先にもだ。 現代のスラングだと「パイスラッシュ」「パイスラ」「Φ」とか記述すんだっけ? 目のやり場にホント困ります。 いい意味でねいい意味で。 俺は車を発進させた。 下田綾子は静かだ。 顔を横目で見てみても緊張している様子は無いし、リラックスしている風だ。 しかし、無言である。 なぜ話さない? 全然苦痛ではないのだがなぜ話さないのかが気になってしまう。 行こうとしていたファミレスまで十分程度だ。 夕方の綺麗な空と夏の夕方という何かを期待してしまう空気感が車の外を流れていく。 そして二人とも謎の無言をお互い貫く中、ファミレスに到着した。
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