10 不穏な噂話

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10 不穏な噂話

その日も私はルードラの街に来ていた。 自分の力で復興したこの地が特に気に入ってしまったのだ。 ルードラの酒場に入ると、鉱山員達がビールで祝杯を上げ、ナッツやチーズなどのつまみを運ぶ陽気な店員達が居た。 私はそんな酒場の雰囲気に馴染むように質素なワンピースを着ていた。 ビールと干し肉を注文して、しばらく待っていると、こんな噂話が聞こえてきた。 「我が国には、軍師姫がいるらしいぞ。」 「知ってる、知ってる。 皇帝陛下のお気に入りらしいな。 なんでも、夜から朝までずっと寝所に籠っているとか。」 「それはそうと、ベルベットとの戦いの成果は軍師姫によるものだそうじゃ無いか。」 「軍師姫とはどんな姫なのだろうなぁ…?」 「しかし、ここルードラも不穏になったもんだ。 知ってるか? 金山に目をつけたシャルナーク国がここに攻め込んで来るとか。」 「うーん、今のうちに稼いで逃げた方が良さそうだな。」 などなど… そうか! 迂闊であった! ここに金山が出ると分かれば、他国に狙われるのは目に見えているでは無いか! その対策を、私は怠っていたのだ! 私はすぐに、馬車を飛ばして後宮に戻った。 そして、本城に出向いた。 「これは…? 軍師姫とか言う小娘か… このような時間に城に何の用だ?」 確か… 騎士長のベルゼンとか言う… 私は記憶を辿る。 鋭い目で私を睨みつける彼に良い印象はない。 「火急の用件にございます! どうか、陛下に御目通りを!」 私は焦っていた。 「ならん! もう、夜の9時だ! 皇帝陛下はお休みになっている! 明日にせよ!」 「しかし…!」 そう問答になった所で、皇帝陛下が現れた。 「なんだ、寝室まで声が響いておるぞ。 とにかく、エティーナ、我が部屋に来るが良い。」 「へ、陛下! 恐れながら申し上げます! 後宮の姫を陛下の部屋に入れるという事は…!」 「良いのだ… ベルゼン、下がれ。」 「…はっ!」 そうして、皇帝陛下の部屋に連れて行かれた。 虎の絨毯に像の牙が飾られ、煌びやかなシャンデリアに照らされたその部屋は豪華絢爛。 今更ながら私が居ても良いのだろうか? しかし、今はそんな事を気にしている場合ではないのだ。 「皇帝陛下…!」 「何だ? ワインでも飲まぬか?」 「いえ、結構でございます。 大事なお話があるのです。」 「ふむ。 申してみよ。」 「ルードラの復興は確実にうまくいきました。 鉱山員達でも賑わい、農業の街としてもまずまずの売り上げを上げております。 特に金は大量に出ているとか…」 「良かったではないか。 全てそなたの力だ。」 「いいえ、よくないのです…! ルードラでこんな噂話が流れていました。 隣国のシャルナーク国が金山を狙い攻め行ってくるだろう、と…!」 「なるほど… 鉱物は、特に金ともなれば、戦国の世においては貴重な財源だからな。 狙う気持ちも分からなくは無いな。」 皇帝陛下は少しも動揺されていない。 「皇帝陛下…? 何か策がおありなのですね…?」 「気づいたか? そうよ、今度は俺の力をそなたに見せる番だ。 もう、手は打ってある。 明日から、少しルードラに外泊せぬか? 良いものが見れるぞ?」 皇帝陛下は不敵にニヤリと笑いそう言った。
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