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29 また噂話
私は翌日、エドバ城に向かい、ベルゼン殿から外出許可証をもらった。
「皇帝陛下でしたら、執務室にいますぞ!
会って行かれぬのか?エティーナ殿?」
「ほ、ほほほっ!
き、昨日十分に話しましたゆえ!」
私の声はうわずっている。
しかし、ベルゼン殿はそんな事に気づく様子も無く言った。
「相変わらず仲が良い事で!」
「な、な、仲良くなどありませんわっ!」
私はそう言い捨ててエドバ城を後にした。
ベルゼン殿は今頃首を捻っている事だろう。
い、言えない…
昨夜あんな事があったなんて…
とても…
とにかく私は気持ちを切り替え、エドルの街に向かった。
私がトパーズの後宮の馬車でエドルの街に着くと、エドル領伯爵が出迎えた。
「これは、これは、軍師姫様!
我がエドルの街も街おこししていただけるとは…!
恐悦至極に存じ奉ります!
私はエドルを治める、ドガゼフと申します!
何卒お見知り置きを…!」
「では、ドガゼフ殿に頼みたいことがございます。
この街には、大きな川が通っておりますね?」
「え、えぇ…
エドール川と申します…
それが、街おこしと関係あるのでしょうか…?」
「大有りですのよ。
明日ルードラの街から土魔導師を3名ほど連れてきます。
そして、畑に用水路を引くのです。
いいえ、正確には田んぼに、ですわ!」
「タンボ???
それは一体…?」
「説明は後ほどしますわ。
今は私の名声を信じてくださりませぬか?」
「それはもちろん…!
軍師姫様が、用水路とおっしゃるなら、二つ返事でそう致します!」
「ありがとうございます、助かりますわ。
いくつか使っても良い土地を見せていただけますか?」
「はい、もちろんです。
では、こちらに…」
そうして、エドルの土地を視察し、田植えは次の日以降から着手する事にした。
土魔導師がいれば、水田を作るのにそんなに時間はかからないはずである。
そして、後宮に戻った。
久しぶりの外出であったため、仕事をしたという達成感があった。
テーブル席に腰掛けて、紅茶を飲む私の元にマリアがやって来た。
「上機嫌にございますね…
エティーナ様…」
「あなたは何だか不機嫌そうね、マリア?」
「あの噂をご存知ないのですか…?」
「またぁ?
あの噂って何なの?」
私は半ば呆れ気味に尋ねた。
すると…
「皇帝陛下が正妃を迎えられるかもしれないという、噂にございます…」
「えぇぇぇぇ!?」
私は自分が正妃になる噂と同じくらい驚いた。
「実は…
今敵対しているスーベルシア国からこんな提案があったのです。
スーベルシアの王女をエドババーバの皇帝の正妃として迎えれば、同盟関係を結ぶ、と…
それで、スーベルシアは大国ですから…
みな、その案に賛成なのですわ…」
「そう…」
私はそうとしか言えなかった。
スーベルシアは中央大陸1番の大国、エドババーバからすれば、同盟を結べるのならこれほど良い話はないだろう。
私の出る幕ナシ、か…
何だか、視界が少し滲んだような気がするけれど、きっと気のせいだ。
マリア達を下がらせ、私は1人で眠れぬ夜を過ごした。
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