8 ご生誕祭

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8 ご生誕祭

後宮に戻ると、後宮はいつにも増して慌ただしそうだった。 まぁ、それもそうだろう。 皇帝陛下の25歳のご生誕祭では、姫君達は誰が皇帝陛下のエスコートを受けるか?と、そればかりを考えて着飾っているのだから。 部屋に戻ると、マリアやレイ、アール達も例外では無かった。 「まぁ! エティーナ様! ずっと外出されてらっしゃるから、ドレスの試着にも間に合わないかと思いましたのよ!」 「ドレスの試着? いつものドレスじゃダメなの?」 「まぁ! エティーナ様っ! 皇帝陛下のご生誕祭ですのよ!? 他の姫君方に引けをとらない豪華なドレスでないと!」 「うーーん…」 あまり乗り気はしないけれど、後宮内のドレス店に向かった。 「エティーナ様は黄金の瞳でしょう? ですから、エメラルドグリーンのドレスなんて、映えると思いますのよ!」 「うーーん… そうねぇ。」 そろそろ、陛下に道の整備の件について進言しなくては… そんなことを考えながら、着せ替え人形に徹した。 やっとドレス選びも終わり、私は疲れ果てて後宮の部屋に戻った。 ♦︎♦︎♦︎ そして、その3日後皇帝陛下の生誕祭が行われた。 本城で行われるので、みんなお姫様方もエドバ城に馬車で向かう。 ご生誕祭舞踏会はそれはそれは華やかで、薔薇のアーチで彩られ、魔法の電球が浮かび、みな美しく振る舞っていた。 私も退屈ながらも、皇帝陛下への礼儀を欠くわけにはいかない。 後宮で姫として暮らしていくからには、こう言った催し物には出なくてはならないのだ。 「おぉ、軍師姫ではございませんか?」 そう私に声をかけたのは、イグナード様だった。 「イグナード様… ご機嫌麗しく…」 私は一応レディのように挨拶した。 「はっはっはっ! 軍師姫らしくありませんな! 今日は美しく、普通の姫君に見える。 あ、いい意味で、ですよ?」 イグナード様は笑ってそう言った。 確かに私らしくは無いだろう。 「いささか窮屈ですわ。」 本音を言う。 「そうでしょうね。 どうですか? あちらでバトルボードゲームでもしませんか?」 イグナード様がおっしゃった。 バトルボードゲームとは、要するに将棋やチェスのようなもので、弓隊や重装歩兵隊などを操り戦うボードゲームである。 私は目を輝かせた。 「ぜひ、一戦お願いしますわ!」 私たちは王族や貴族達が見守る中バトルボードゲームの席に着いた。 ふーむ、イグナード様の性格は存じないが、攻勢が強そうだ。 ならば私は防御を固めるか。 イグナード様は重装歩兵部隊を繰り出してくる。 私は重装歩兵部隊の盾隊を駆使して防戦一方、に見せかけて相手の背後に回り込み補給部隊を壊滅した。 イグナード様の陣は補給部隊を絶たれ、右往左往… ついに、防戦一方と思われた私の陣が持久戦の末勝ったのだ。 「参りましてございます! 軍師姫、お見事!」 イグナード様がおっしゃる。 「いいえ、お手合わせいただきありがとうございます。」 私も頭を下げて言う。 その時… 「やれやれ、こんなところで遊んでいたか。 我が姫は。」 皇帝陛下がそれは美しいことこの上無い正装で現れた。 シルバーの正装には金のボタンや装飾が施され、マントの裏はベルベットの黒。 金髪の髪は少しかき上げ気味で、それはそれは、かっこよかった。 これは、姫君達が騒ぐ訳だ… 「エティーナ姫、私と一曲踊っていただけませんか?」 皇帝陛下に手を差し出され、私はその手を… 振り払うわけにもいかないだろう。 「喜んで。」 というわけで皇帝陛下のファーストダンスの相手は私。 「何よ!トパーズの後宮のくせして!」 「軍師姫だとか言われて調子に乗ってるのよ!」 「ダイヤモンドの姫が優先のはずなのに!」 「あの、ブス!」 やっかみ、妬み、僻みの声が聞こえてくる。 「だいぶ妬まれているようだな?」 皇帝陛下はおかしそうにいう。 「なれば、私をファーストダンスに誘うべきでは無かったかと…」 私は言う。 「イグナードにうつつを抜かした罰だ。 せいぜい僻まれよ。」 「うつつなど抜かしておりませんわ。 バトルボードゲームをしただけですわ。」 「それでも腹が立つ。」 「はぁ… 子供のようにございますね…」 「はっはっはっ! 不敬罪だぞ。」 そうして、舞踏会の間中、皇帝陛下は私から離れようとはしなかった。 私は後宮の姫君をほぼ全て敵に回したのだった。
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