case1.年上夫と押し付けられた妻

2/8
前へ
/8ページ
次へ
 小さな頃。私は『お姫さま』になりたかった。  もちろん、それは本物のお姫さまではない。誰かにとってのお姫さま。つまり、一途に愛されて、誰かの唯一になりたかった。  ただ、年頃の女の子だったから。フリルなどがあしらわれた可愛らしいドレスとか、きれいなアクセサリーとか。美味しそうなケーキとか。そういうものも大好きで、憧れていた。  でも、私には与えられないものだと頭の何処かでわかっていた。 「わぁ、ありがとう、おかあさま!」  遠くで異母姉の喜んでいる声がする。  きっとその側には父がいて、義理の母もいるのだろう。私だけ、この家では異質な存在だった。 (わたしは、あいじんのこらしいから)  だから、愛を求めてはいけない。  だから、蔑ろにされても耐えなくてはならない。  だから、お義母さまに暴力を振るわれても泣いてはいけない。  小さな頃の私にはたくさんの枷があって、決まりがあった。  今も実家の伯爵家ではそれは変わらない。ただ、大好きな夫との生活の中では。  ――枷も決まりも、なにもない。ただただ平穏で幸せな日々を、過ごせている。  私には過ぎたほどの幸せ。異母姉が得るはずだったもの。  胸の奥底にじわじわと湧き上がるのは、罪悪感なのだろう。 (旦那さまを、自由にしなくては……)  結婚して二年。私と旦那様の間に――身体の関係は、ない。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

92人が本棚に入れています
本棚に追加