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小さな頃。私は『お姫さま』になりたかった。
もちろん、それは本物のお姫さまではない。誰かにとってのお姫さま。つまり、一途に愛されて、誰かの唯一になりたかった。
ただ、年頃の女の子だったから。フリルなどがあしらわれた可愛らしいドレスとか、きれいなアクセサリーとか。美味しそうなケーキとか。そういうものも大好きで、憧れていた。
でも、私には与えられないものだと頭の何処かでわかっていた。
「わぁ、ありがとう、おかあさま!」
遠くで異母姉の喜んでいる声がする。
きっとその側には父がいて、義理の母もいるのだろう。私だけ、この家では異質な存在だった。
(わたしは、あいじんのこらしいから)
だから、愛を求めてはいけない。
だから、蔑ろにされても耐えなくてはならない。
だから、お義母さまに暴力を振るわれても泣いてはいけない。
小さな頃の私にはたくさんの枷があって、決まりがあった。
今も実家の伯爵家ではそれは変わらない。ただ、大好きな夫との生活の中では。
――枷も決まりも、なにもない。ただただ平穏で幸せな日々を、過ごせている。
私には過ぎたほどの幸せ。異母姉が得るはずだったもの。
胸の奥底にじわじわと湧き上がるのは、罪悪感なのだろう。
(旦那さまを、自由にしなくては……)
結婚して二年。私と旦那様の間に――身体の関係は、ない。
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