7人が本棚に入れています
本棚に追加
・・・その夕方、私は学校から帰宅すると、自宅のジムマシンで汗を流していた。
モデルとしての体型を維持するためには日々の鍛錬は欠かせない。
今度行われる中間テストの問題に目を通しながらランニングマシンでジョギングしている時のことだった・・・
「~さて、次のニュースです。いよいよ噂の”彗星”が本日の夜、地球の近傍を通過します!」
「『アストライア』と名付けられたこの彗星ですが、一説では宇宙の年齢と同じだと言われ、軌道と方角から外宇宙からの来訪者だと言われています」
「専門家たちは、今回の彗星から放たれる塵が今までにない大規模なものであり、壮大な流星の天体ショーが長時間に掛けて夜空で見られるだろうと予測しています」
「スペクトル分析によると、この彗星は未知の物質で構成されている可能性も示唆されており、流星が大気圏で燃えつきてしまう事への研究者達の落胆の声が相次いでいます」
「流星群は今夜7時から本格化し・・・」
テレビから流れているニュースを聞き流しながら「流星」という単語にふと私は顔を上げた。
画面を注視すると、天体望遠鏡で映し出された流星群の映像が流れていた。
へぇ、流星ねぇ・・・と私は興味を惹かれて、思わずテレビに見入ってしまった。
「うわぁ、綺麗・・・」と思わず声が漏れてしまう。
まだ、流星群は本格化していないようだが、それでも夕闇の空にいくつもの流れ星が映し出されていた。
まさに、壮大な天体ショーが夜空で繰り広げられているのだ。
「こんな機会滅多にないしなぁ・・・よし!!今夜屋上に出てみようかな!!」
私はランニングマシンから降りると、一旦お風呂に入って身体を洗い流す。
そして、夕食を済ませると、外出用の服に着替え、屋上へと足を運んだ。
タワマンの最上階に住んでいるとこういう時アクセスが良いから便利だ。
屋上に行くと、既に時刻は夜の7時を回っていた。
そして、私は思わず感嘆の声を上げてしまう。それほどまでに今夜の夜空は素晴らしかったのだ・・・。
「うわぁ・・・すごい綺麗・・・」と言いながら私はスマホのカメラで観測を始める。
流れ星が次々と夜空を駆け、消える瞬間に夜空を一層明るく輝かすのだ。
その神秘的な光景に私はしばらく見惚れてしまう。
そうだわ!せっかく流れ星を見ているのだから願い事を言ってみようかな?
だけど、何を願おうかしら・・・?
「うーーん・・・」と私がしばらく悩んでいると、その瞬間私の頭の中に突拍子もない事が浮かんだ。
それはあまりにも子供じみていて、馬鹿らしく、現実味のない願いだったが、恐ろしく壮大な願いだった。
誰しもが一度は自分が特別な存在だと思い、一度はくだらない夢を口にする。
小さい頃の私の友達の将来の夢が“世界征服”や“正義のヒーローになる事”だったように。
全能感が身体を支配しているとありえない願いを口にするものなのだ。
しかし、大人になるにつれて、自分の器を知り、その願いを口にする事自体を恥ずかしいと感じてしまう。
だが、私は違った・・・。この星空に魅入られたこの夜だけは違ったのだ。
私の中に全能感が渦巻いていた。
・・・私は選ばれた人間。
私は自分が世界一のモデルだと思っているし、誰よりも美しいと思っている。
私がもっと有名になれば誰しもが私を憧憬するだろうし、時の経過とともに私のこの美しさが失われるのは人類・・・いや、世界の損失だ。
これを不滅のものとする為には私は人を越える存在にならなければならない。
そして、世界が私の美しさを称え続けなければならない。その為には世界の理の変革が必要だ。
まさにこの時の私は”唯我独尊”という言葉がぴったりだっただろう。
だから私はこの時あり得ない願い事を言ってしまった。
「”世界を創り変えられる女神”になれますように・・・・」と。
最初のコメントを投稿しよう!