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「こんな時間に起きてる悪い子は、一体どこの誰かなぁ?」
突然のしゃがれ声に驚き振り返ると、部屋の隅に赤い服の男の人が立っていた。帽子を被り、ひげを蓄え、大きな袋を背負っている。
僕は喜び駆け寄った。
「おじさん!」
「お、おじさん!? 失礼な、私にはサンタクロースという由緒正しき名が……」
「あの時のおじさんでしょ! もう、相変わらず正体隠すのが下手くそなんだね!」
「何を言っているんだねボク? クリスマスの夜にこんな格好して現れる人間が、サンタの他にいるものか。見ろ。赤い服に赤い帽子、白いひげ、プレゼントの入った普通の袋……」
「白いひげって、なんのこと?」
「なんのことって、見ての通り立派なこの……あっ?」
自称サンタは口元に手をやりながら、素っ頓狂な声を上げた。
「なるほど、付けひげが取れちゃったんだね。おかげで自前の黒ひげが丸出しだよ」
「……どこで落としたんだろう? やっぱり俺は、あわてんぼうみたいだ」
そう言っておじさんは笑った。僕も笑った。ひとしきり笑い合った後、僕はおじさんに尋ねる。
「今日のおじさんは何しに来たの?」
「さぁ。何だと思う?」
おじさんは緩やかな動作で背中の袋を下ろし、中に手を滑り込ませる。出てきたのは、ラッピングされた大きな箱だった。
「うわぁ! これ、もしかして僕に?」
「……あの日、ボクは俺に優しい気持ちを届けてくれた。だから今度は、俺がボクに届けにきたんだ」
「ありがとう! おじさん!」
おじさんは深いしわに包まれた目で僕を見つめながら、あの日と同じ、とろけそうなほど柔らかな声でこう言った。
「メリークリスマス!」
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