ユーナとして生きる

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ユーナとして生きる

 痛む全身。  ぼんやりとした記憶。  薄っすら目を開けると、見慣れない天井に知らないおばあさん。 「お嬢様が目を覚まされました!」  おばあさんの大きな声に、今自分の身に起きていることが瞬時に理解できた。  おばあさんは誰かを呼びに行ったのか、部屋から飛び出していった。  美しい天蓋付きのふかふかのベッド。  部屋中には豪華な装飾。  私、平田結奈(ゆいな)20歳は交通事故に遭い、このユーナ・ストロキバウス18歳の身体に転生したのだと思われる。  魂が持つ結奈の日本での記憶と、身体が持つユーナのこの世界での記憶が混在する。  ユーナもこの部屋のベランダから転落し、全身打撲で寝込んでいたようだ。  おばあさんと思ったのは、私の乳母であり今でも世話を焼いてくれているエレナ。  この由緒あるストロキバウス家で唯一の私の味方。  味方、といってもその他の人達が『敵』なわけではない。  ユーナが自ら殻に閉じこもり、エレナ以外に心を許さなかっただけだと私ならわかる。  ストロキバウス家長男のハンスと長女のマリカを溺愛する両親。  構って欲しくて悪行や自傷を繰り返すあまり、両親や使用人に愛想をつかされたわけだ。 「ユーナったら……しょうがないわよね。でも、ハンス兄様だってストロキバウス家の後継者として、マリカ姉様も良い縁談が来るように努力しているのよ」  ハンス兄様もマリカ姉様も、自由奔放なユーナを羨ましいと何度も口にしていた。 「ちょっとまだ信じられないけれど……尽きた命が救われたんだ。ユーナとしてこの人生を全うしよう」  異世界転生モノの小説が大好きだった私は、この状況を楽しみつつあった。
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