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本との出会い
ユーナとして生きて9カ月が経った。
最近は家庭教師も「教えられることが少なくなってきた」と言って、午前中のみの授業となったため、昼からはまた『暇な時間』となった。
「せっかくだし、この世界の街並みをのぞいてみたいなぁ」
この9カ月間、屋敷の敷地内から出たのはどこかの貴族の屋敷ぐらい。
最近では貴族のお茶会に参加しても、その場のご令嬢から笑われることが少なくなった。
私はお父様の許可を得て、従者を連れて馬車でこの国で一番賑やかで安全な街へ向かった。
その街に入るには通行証が必要なくらいの厳重さだったが、馬車を降りて自由に散策できるのは非常にありがたかった。
「わぉ。ドレスの仕立て屋がある!ザ・中世ファンタジー的なデザインが素敵!」
高級そうな扉の向こうにはカラフルな洋菓子、ドレス、美しい靴。
これぞ異世界ファンタジーの醍醐味~~!
まだ『転生者』としてのお客様気分が抜けない私は、この世界の美しいものが集められたこの街でついついはしゃいでしまった。
ふと、1軒の店の前で立ち止まった。
ここは……
「本屋ですね。中に入られるならその間に馬車の手配をしてきますので、そのままお待ちくださいね」と従者。
私は何となくそこに行かなければならない気がして、静かにその重厚な店の扉を開けた。
店内には窓が無く薄暗い照明の中、天井まで続く無数の本棚に数多くの書籍が並んでいた。
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