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17.望まぬ結婚 その二(ソフィアside)
「僕にはね、恋人がいたんだ。貴族じゃない。平民の女性だ。大学を卒業したら彼女と結婚する筈だった。彼女の家に婿入りする約束をしていたんだ。そこそこ大きな商売をしていてね。平民の中では裕福な家だったんだよ」
「……」
「大学は彼女の家から通った。貴族と違って平民の間では婚約契約書なんてものは交わさない。口約束で十分だからね」
「……」
「でも、僕は公爵家に入ることが決定事項だった。だから彼女とも別れたよ」
「……」
言葉を発することができませんでした。
私は黙ってラヴィル様の話を聞くことしかできません。
「君もこの結婚には不本意なのだろう?聞かずとも分かる。婚約以降まったく交流を持とうとしない。こちらも意地になっていたとはいえ、文句の一つも言ってこない。これは王家が決めた結婚だ。婚約者の男に蔑ろにされたと、訴えたところで君に瑕疵はない。公爵家にも実家にもなんのアクションも起こさなかった。こちらが驚くくらいにね」
「……」
ラヴィル様の言う通りです。
私は、一度もラヴィル様に文句も不満も何も言いませんでした。
だって……何を言えばいいのか分からなかったのです。
手紙の返事一つ寄越さなかった婚約者にどう文句を言えば良いのでしょう?
ラヴィル様は公爵家なり実家なりに言えばいい、と仰いますが……
「お互いに理解しあう必要はない。愛し合う必要はない。と、こちらは判断させてもらった。おめでとう。君は見事に公爵家に不合格の烙印を押された。次期公爵夫人に相応しくない、とね。君の役目は公爵家の血を絶やさないために子供を儲けることだけだ。それ以上は望まないでくれ」
「……」
「ああ、社交なら気にする必要はない。僕達は数日したら公爵領に行く。王都に来ることもないから、安心するといい。君だってこうなると分かって僕と交流しなかったんだから、文句はないだろう?実家で何を聞かされたのかは知らないが、伯爵令嬢がいきなり公爵家の嫁となることは不可能だ。教育自体が違うからね。公爵家の作法を教えて欲しい、と言ってくるのを待っていたが、この二年まったく音沙汰なし。公爵閣下も驚いていたよ」
謝らなくては。
そんなつもりはなかった、と。
なのに声がでない。
声だけじゃない。体もだんだん熱く……
「漸く効いてきたか。さっき飲んだ果実酒はね、媚薬入りの果実酒なんだよ」
「び……やく……?」
「そう。君はこれから僕に抱かれるんだ。初夜だからね。夫婦の営みをしなければならないだろう?」
ああ、だから体が熱かったのですね。
ですが何故媚薬入りの果実酒なんかを?
「さて。仕事に取り掛かろうか」
伸ばされるラヴィル様の腕。
息苦しくなってきて、思考が定まらなくなってきました。
私は「やめて」と声をあげることもできないまま……ラヴィル様に組み敷かれてしまいました。
優しい労わりのない行為。
ただただ、子供を作るだけの作業。
痛いはずなのに。
苦しくて、辛いはずなのに。
媚薬のせいなのか、熱い体は快楽を得ることしかできませんでした。
視線が一度も合うことのなく。
ラヴィル様は、私でない、別の誰かの名前を何度も呼びました。
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