01 高3の夏

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 搭乗時間がくるまで空港内のカフェで時間を潰した。  出がけは上機嫌だった雪ちゃんが、妙に押し黙っている。 「ワタシが隣に居たら、光治くん笑われてるかも」 「え、なんで?」 「ワタシ、デブだし」  ラメ三人組のことだ。関係ないカップルを値踏みして(わら)っていた女の子たち。 「デブじゃないよ。まあ、肉付きはいいけど」全然フォローになってない。「あんなヤセギス連中よりずっと魅力的だと思う」 「ありがと…… 恋愛って美男美女だけの特権なのかな、って思っちゃった。スタイルだって大事だし。条件以下の人には、恋愛の権利ないみたい」 「えー、そんな大それたハナシになるぅ?」 「映画だって小説だって、綺麗な男の人と女の人ばかり恋を繰り広げてる」 「お芝居だし。感情移入させるなら、キレイな人になりきらせた方が喜ばれるし──」 「ほら」クリームソーダを啜って頬を膨らます。「やっぱり綺麗な方がイイじゃん」 「うーん。でもさあ、電車の向かいに居たお二人、すごく幸せそうだったよ」ボクの思考は深掘りできずに迷走する。 「そうだよね。心が繋がってる、て感じだった。ああいうの、いいなあ」ストローを廻してアイスクリームを緑の炭酸に溶かした。「図書室で借りた本なんだけどね。女性作家の。その小説の中で、クリスマスの日、電車で乗り合わせたカップルを見て女主人公はこう思うの──あんな醜いカップルにもイブは来るのだ」  ボクのアイスコーヒーは氷だけになっている。仕方なしに水を飲む。 「──そこ読んだとき、ちょっとショックだった。たぶんワタシも同じことを思ったりしてる。さっきの()らみたいに口に出さないだけで」 「思いつめるほどの事かなあ」 「カタチはいい方が、やっぱりイイよね」 「そりゃそうかも」 「だよね。わかった」 「何がわかったの?」 「まあ、行ってきます。そろそろ時間だし」取って付けたような笑顔で、雪ちゃんは話題を強制終了した。  謎の決意を秘めたようすで、彼女はピンクのキャリーケースを転がし搭乗口の先に消えた。  目が痛いほど青い空。フィンエアーの機体が青に溶けてしまうまで、ボクは展望デッキで見送っていた。
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