青春バトンタッチ

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「これ、アオト君にオススメだよ! ちょっとコアな話だけど」 「へぇー、穂乃花がそう言うなら、読んでみるわ」  俺は、人生で初めてデートというものをしている。  実は俺も、謙心のことをバカにできないほどの超奥手野郎だった。  そんな俺が、心からデートを楽しんでいる。  本を買った後、近くのカフェに移動した。  好きな本や映画の話をしているこの時間は……俺にとってまさに至福の時間だ。  穂乃花からオススメされた一冊をペラペラと流し見していると、ニヤケながらこっちを見ている穂乃花と目が合う。 「ん? どうかした?」 「え、いや……なんかさ、高校に入ってから、こんなに楽しめてるの、初めてかも」 「え……?」 「いや、何でもない!」  言葉の意味は、きちんと理解した。  まさか穂乃花がそんなこと言うなんて思わなかったから、虚を突かれたようにポカンとしてしまった。  顔を真っ赤にしながら、穂乃花は小さな文庫本で顔を隠す。  そんな小さな本じゃ、いくら顔の小さい穂乃花でも、隠しきれないのに……。  俺はその時、とんでもなく、穂乃花が愛おしくなった。 「穂乃花、俺と……付き合ってくれない?」  ……口から勝手に、その言葉が出た。  その瞬間、脳裏に謙心の姿が浮かんだ。  うるさい。  今は邪魔するな。  謙心には、サッカーがあるだろう。  俺には何もないんだよ。  穂乃花という存在意外、俺には何もないんだ。  中学の時、俺は謙心の陰に隠れて、劣等感に苛まれていた。  いくら努力しても、サッカーで謙心には勝てない。  みんなからの信頼も厚くて、頼られる男だった。    親友だとは思っていたけど、本当は辛かったんだ。  本当はお前が手にできるはずだったもう一つの青春……。  ――その青春は、俺にバトンタッチだ。 「……はい! 私も……アオト君が好きです」
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