青春バトンタッチ

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謙心(けんしん)に好きな人ができたぁ!?」  それは、セミの鳴き声が聞こえ始めた、高校二年生の夏。  甲高い声が放課後の教室に響いた。  その上擦った落ち着きのない声は、恥ずかしながら俺の声だ。  教室の一番後ろの席で、中学からの親友である謙心と話している。 「馬鹿かよアオト! 声がデカい!」 「あ、ああ……わりぃ」  掃除が終わった二年三組の教室には、俺と謙心しかいない。  謙心は一旦廊下に出て、誰か聞いているやつがいないか辺りを確認した。  誰もいないとわかった謙心は、ホッと息を吐きながらドアを閉める。 「アオト、静かに聞いてくれよ」 「ああ、気をつけるよ。まさか謙心に好きな人ができたなんて、思いもよらなかったから……」  謙心と仲良くなったきっかけは、中学のサッカー部。  その頃からサッカー一筋だった謙心は、恋愛に関しては超奥手で、恋愛話をするのさえも拒絶するくらいだった。  ずっとサッカーにしか興味がないって言っていた謙心にも、ついに好きな人ができたなんて……。 「で、で! そいつ、誰!?」 「アオト、近いよ」 「いいから、相手は誰なんだ?」  謙心は俺から離れるように、一番前の席まで移動した。  おもむろに学ランを脱ぎ始める。  これから部活が待っている謙心は、練習着に愛用しているイングランド代表のトレーニングウェアに着替え始めた。 「七組の千堂 穂乃花(せんどう ほのか)って人。アオトは知らないだろ?」 「千堂 穂乃花……名前は聞いたことあるけど、顔は全く思い出せないな」 「この学校……ってか、この学年人数多いもんな」 「さすがに七組までは知らないな。教室も反対側だし」  いつもは謙心が俺のクラスである三組に遊びに来る。  謙心は六組だから、きっと合同授業の時に仲良くなったんだろう。  俺は七組まで行ったことはない。  名前しか聞いたことないその穂乃花ってやつが……謙心の心を掴んだのか……。 「それで謙心、いつ告白するんだよ?」 「告白? 俺ができるわけないだろ」 「やっぱりか……謙心ってサッカーの時はイケイケなのに、恋愛になると超奥手だよな」  謙心は坊主頭のテッペンを人差し指で掻きながら、「だって、恥ずかしいだろ」と呟いた。
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