青春バトンタッチ

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「謙心、高校生活は一度きりだぜ? 絶対上手くいくから、告白してみろって」 「……できねぇよ」 「どうして? だいぶ仲良くなれたんだろ?」 「ま、まあ……唯一話せる女子って感じだな」  謙心が誰かを好きになるなんて、よっぽどだ。  きっとその穂乃花ってやつが、謙心の閉じ込めた心を開いたんだ。容易に想像できる。  少なくとも興味がなければ、謙心みたいな坊主で体の大きい男らしい男には近づかないだろう。  しかも女子の前では無口だし……恐いが先行して近寄れないという声が大半なはず。  それを搔い潜って仲良くなった……。  俺は腕を組んで、考え始める。  ここは親友として、一肌脱ぐべきか……。 「どうしたんだ、アオト? 俺もう、部活行くけど」 「……謙心、俺がラブレターを書いてやるよ」 「はぁ? 何言ってんだ?」 「謙心名義で、穂乃花宛てにラブレターを書いてやるってこと! 大丈夫、ちゃんと上手くいくように書くから!」  謙心は驚きで、右手に持っていたスパイクシューズを落とした。  俺は気にせずに、ニヤッとさせながら「アシストしてやるって」とカッコつけて言う。 「中学時代、アオトが俺にアシストしたことあったっけ?」 「あるわけねぇだろ。サッカーは全然ダメだったけど、恋愛は別だ。俺に任せておけよ」 「本当かよ……信用していいのか?」 「ああ! 帰宅部にだって意地はある。謙心のために、想いを届けてやるって」  謙心は「うーん……」と唸るように考え込む。  そして十秒後に「じゃあ頼んだわ」と、腹を括ったような強い目力で答えた。 「おお、任せとけよ! 謙心は安心してサッカーに打ち込んでくれ」 「……わかった。でもさ、今の時代にラブレターって、読んでくれるのか?」 「こんな時代だからこそ、真心を込めて書くんだ。そっちの方が伝わりやすい」 「そうなのか……まあ、任せるわ。俺、部活行ってくるから」 「おう! 頑張ってこい!」  謙心は去り際に「お前もサッカー、続ければ良かったのに」と言い残して、教室を出て行った。  ……サッカーなんか、もうやりたくないって。
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