青春バトンタッチ

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「穂乃花さん。はじめて出会った時から、好きでした……」  俺はすぐに家に帰って、机に向かった。  テスト前ですら机に向かうことはないのに、我ながら珍しいと思える。  書いている内容を声に出しながら、ペンを動かしていった。  ある程度書いたところで、手が止まる。 「んで……どうしよっかなぁ」  出だしは順調だったけど、徐々に書く内容がなくなってきた。  唇を尖らせ、その上にシャーペンをのせる。鼻の下に挟むようにして、何気なく窓の外を見た。  今日はいい天気。雲一つない青空。  謙心はきっと、今日もサッカーを頑張っている。 「俺にだって……できることはあるんだぜ」  こうしちゃいられないと、ペンを握り直した。  そうだ! と、思いついたように本棚を見る。 「なんか使えるセリフ、ないかなー」  何気なく手に取った、大好きな文庫本。  ペラペラとめくって、何か参考にならないか探す。 「まあ、これでいっか」  ちょうど好きな恋のフレーズを見つけたので、勢いで書いてみた。  こういう時は少しロマンチックなくらいが刺さるんだと、自分を納得させる。  謙心はただでさえ口下手な男だ。ギャップを感じさせた方が、女の子ならキュンとするんじゃないか……。 「よし」  謙心っぽい字で書けているかは心配だけど、そこまで気にしないだろう。  俺なりの自信作が完成した。あとはこれを届けるだけだ。  俺はすぐにスマホでSNSを開いた。  友達のアカウントを開いて、友達のフォロワーの中から同じ学年のやつっぽいアカウントに飛ぶ。  それを繰り返すこと一時間……ようやく、穂乃花らしきアカウントを見つけた。  間違いない。アカウント名が『Honoka Sendo』になっている。  穂乃花の投稿を見ていくと、駅前のカフェでバイトしていることがわかった。  探偵にでもなった気分だ……部屋で一人、ニヤケ面になる。  明日は土曜日。  もしかすると、穂乃花はバイトかもしれない。  明日行ってみよう。行って、この手紙を届けよう。  明日のことなのに、今から緊張してきた……。
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