青春バトンタッチ

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 穂乃花の嬉しそうな表情に、俺は言葉を失った。  まさか、この一冊に共感が生まれるとは。 「私もシェイクスピアが大好きなんです」 「え、ああ、俺もです」 「本当!? 嬉しい! お兄さん、高校生ですよね?」  穂乃花、こんなに笑ってくれるのか……。  俺は「はい」と答えて、それから聞かれたことを答えていった。 「ええ!? 私と同じ学校? しかも同級生!?」  結局、俺の身の上を全て明かしてしまった。  それから急に距離が近くなったように、穂乃花はタメ口に切り替えて話す。 「アオト君、三組なんだ! 確かに三組は知らないなぁ」 「そ、そうだよねぇ……」 「じゃあ、シェイクスピアで何が一番好き?」  それからは長い時間、シェイクスピアの話をした。  途中、俺が店長に怒られないか心配になったけど、別に何ともなかった。  俺も楽しくなって、ついつい話してしまう。  小一時間話した後に、穂乃花は仕事中だということに気づいて、「戻らなきゃ」と店長のもとにいった。  心臓がバクバクしている。  まさか、ここまで急接近できるなんて……。  そこで、本来の目的を思い出す。  今日は謙心のために、ラブレターを渡さないといけない。  俺は穂乃花が戻ってこないのを確認した後、もう一度手紙を開いた。  今度こそ、謙心の名前を書き足さないと。  邪魔になるからと、テーブルに置いてあったシェイクスピアをカバンに戻そうとする。  その時に、穂乃花がまた来た時のために、やっぱり置いておこうと手を止めた。  ――そこで、気づいた。  あれ、俺……穂乃花が気になってる?  他人の名前を書こうとすると、正気でいられなくなる感覚に……陥ってしまった。  そして俺は、名前を書いた。  自分の名前と、電話番号を書いて、穂乃花に渡した……。
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