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「おい、アオト! あれ、どうなった?」
「ん? あれって?」
「とぼけんなよ! ラブレターは!?」
朝の通学路、二人で自転車を漕ぎながら、話す。
あれから一週間は経ったか……。
それまでも謙心と話すチャンスはいくらでもあったのに、全然触れてこなかったけど……ようやく聞いてきたか。
「渡そうとしたけど……全然相手にされなかったわ」
「お、おいなんだよ! だったらそう言えよ!」
「ごめんごめん……言いづらくて」
謙心は一瞬表情を強張らせたけど、すぐに「まあしゃーないな」といつもの顔つきに戻した。
俺は内心びくびくしていたけど、良かった……上手く誤魔化せた。
「やっぱり俺には、サッカーしかないか……」
謙心は切り替えるように前を見据え、一度だけ溜息を吐く。
俺も「ごめん」とだけ声にし、それ以上言葉にするのはやめておいた。
「どっちが学校に早く着くか、競争な!」
謙心は自分勝手に、自転車のペダルを猛烈に漕ぎ始める。
俺は「ついていけないって!」と、数メートル離れた大きな体に向けて発した。
……俺は親友に、嘘をついてしまった。
『手紙の内容、今見ても面白いね。”恋の始まりは晴れたり曇ったりの四月のよう……”って、シェイクスピアの名フレーズだよね』
穂乃花からのメッセージ。
手紙の内容、ちょっと狙い過ぎたかな……。
まずは友達からと、穂乃花は言ってくれた。
それからこうやって、メッセージのやり取りをしている。
俺はもう、穂乃花のことが完全に好きになっていた。
『じゃあ今度、本屋に行って好きな本を紹介し合おうよ』
穂乃花からの誘い。もちろんイエスだ。
日に日に、メッセージをやり取りする度に、好きが溢れてくる。
あんなに可愛い子が、見た目も中身も普通な俺と、デートをしてくれるなんて。
何日か経てば、謙心に悪いなんて気持ちは、一ミリもなくなった。
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