青春バトンタッチ

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 穂乃花と付き合うことになって、天にも昇る気持ちだった。  本当は、謙心のために届けたラブレター。  まさか、俺が主役になるなんて。  でも、こればっかりはしょうがない。  俺にも美味しい思いをさせてくれ……。  穂乃花も、周りに彼氏ができたと公言したくないタイプの人間だった。  それが功を奏して、謙心にバレずに付き合うことができている。  謙心のサッカーも心から応援できて、俺は俺で青春を謳歌できている。  なんて充実した高校二年生なのだろうか……。 「アオト君、今度見たい映画があるんだけど」 「おお、見に行こうよ」 「やったー! 前に言ってたSFチックなやつなんだけどね……」  放課後の帰り道、穂乃花と歩きながら……週末に見に行く映画の話をしている。  穂乃花とは映画の趣味も合う。  最高だ。  ……信号待ちをしている時、会話が一瞬ピタッと止まった。  俺の質問を穂乃花が返してこないから、すぐに穂乃花の方を見た。  すると、穂乃花は向こうの歩道で信号待ちをしている男を見つめていた。 「あ……」  俺は思わず、小さく声を出してしまった。  自転車に乗りながら、向こうで信号待ちをしていたのは、紛れもなく謙心だった。  額に汗が浮かんでくる。 「あの人、謙心君っていうの。七組のサッカー部」 「へ、へぇー……そうなんだ……」 「あれ、謙心君、行っちゃった……」  俺たちに気づいたのか、それとも気づいていないのか、あの反応ではわからない。  信号が変わる前に、謙心は横断歩道を渡るのを諦め、真っ直ぐ違う方に行ってしまった。  ……まずい。  バレてしまったか? 「今日は部活じゃないんだね、謙心君。一生懸命サッカーやってるから……応援してるんだ」 「そ、そうなんだ……頑張ってほしいね、サッカー」  急激に胸が苦しくなって、罪悪感が押し寄せてきた。
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