青春バトンタッチ

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「……おはよう、アオト」 「お、おはよう!!」  次の日の朝の通学中、ノロノロと自転車を漕いでいると、後ろから謙心が声をかけてきた。  昨日からずっと、謙心に見られたのかどうかが気になって、心が落ち着いていない。  そんな状態で謙心に声をかけられたから、俺はオドオドした「おはよう」を口にしてしまった。 「何だよ、焦っちゃって」 「別に……」 「そうか。昨日部活だったんだけど……足が痛くてさ。途中で練習抜け出して、病院行っちゃったよ」 「ああ、あれ病院に行ってたのか」  謙心は「あれって?」と聞き返した。  しまった……口を滑らした。  平然を装うように「何でもない」と返す。  謙心は「まあいいけど」と言って、話を続けた。 「ただの打撲で助かったよ。俺にはサッカーがなくなったら、何も残らないからな」  その言葉が、胸に突き刺さる。  哀愁さえも感じる謙心の言葉に、俺は我慢ができなくなった。  やっぱり、謙心に黙っておくことはできない。  謙心は親友だ。  俺の勝手な劣等感で、謙心を裏切るなんてしてはいけない。  俺は足を止めて、謙心に大きな声で「ごめん!」と発した。 「アオト、どうしたんだよ?」 「俺……穂乃花と付き合うことになった」 「……どういうことだ?」  人通りの少ない小道で、ここまでの流れを説明する。  謙心は深刻な表情で、俺の話を黙って聞いてくれた。  ……話しながら、自分が嫌になる。  俺は、最低なことをしてしまった。  思いっきり殴られる覚悟は、できている……。 「……すまん、謙心!」 「アオト……」  謙心は深く下げている俺の頭を軽くパチッと叩いて「もういいよ」と笑いながら言った。 「謙心、それだけか?」 「怒っても仕方ねぇだろ。それに、アオトが上手くいって良かったわ」 「謙心……」 「アオトはアオトの青春、楽しめよな」  俺は道の真ん中で、ボロボロと泣いた。  そんな俺を見て、謙心は爆笑する。  俺って……謙心より一段も二段も、小さな男なんだ……。  枷が外れた安堵感、そして劣等感が同時に現れ……心が狂いそうになる。
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