憂鬱な月曜日

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憂鬱な月曜日

 朝、いつもの時間に起きた時。 「仕事を休みたい」と思っても決断しきれずに出勤した場合、大体ロクな目に遭わない。それが月曜日ともなれば、やっぱり休んでおけばよかったと後から思ってしまうものだ。  まさしく今日はその月曜日で、だるさが残る身体を精神力で叩き起こし出勤してから今に至る。  上司から顔色悪いねと指摘され、トイレの鏡で自分の顔を見たら確かにゾンビのような土気色をしていた。筋肉痛、貧血、倦怠感、頭痛もあるのを誤魔化していたが、どうやら気力でどうにかできるコンディションではないらしい。無理せず午後休みを取ることにした。上司も苦笑いしながら「早く休みな」と快諾してくれた。  土曜日に職場のフットサル同好会に引っ張り出されて参加した試合の後、懇親会と言う名目の飲み会に参加して慣れていない酒を飲んだ。それが祟ったのか頭痛は未だに続いているし、昨日は一日使い物にならなかった。なんて週末だ。  運動不足を痛感させられたところで会社を出ると、昼休み真っ盛りの商店街は食欲を唆る匂いに満ち溢れていた。ファミレス、カレー屋、牛丼、蕎麦屋…朝から大して食べていなかった腹が、空腹を訴える。何か食べてから帰って休むことにした。  通勤路から一本逸れた横道に入ると、活気ある声が聞こえる老舗飲食店が点在したエリアになった。すぐ傍にある商店街のファミレスにしようか路地裏の蕎麦屋にしようか迷い、まず先にファミレスの食品サンプルが陳列されている棚を見る。しかし価格が桁違いで諦めた。さすが、オフィスの建ち並ぶ一等地なだけある  諦めて裏路地の蕎麦屋に向かおうとした時、ふと視線を歩道の奥に送ると、小規模だが人の列ができている店が見えた。普段は来ない路地のためか、何もかもが新鮮で興味本位からそちらに向かう。  列ができているのは小さなラーメン屋のようだった。寂れているように見える建物の目の前で列を成していた人達が、次から次へと店内に吸い込まれていく。 「…あっ、おにいさん、ひとつ席空いてますよ!どうぞ」 「あっ、ハイ」  誘われるまま入った店内は狭く、それでもほぼ満席だった。示された席には既にサラリーマンらしき人物が座っていて、品物を待っているようだった。  相席で食べるラーメンは初めてで、勝手が分からずとりあえず壁に掲示してあるメニューから「中華そば」を選び注文する。 「すいません、前座りますね」 「ん」 ×   ×   ×  土気色の顔をしたサラリーマンはこちらに向かい会釈すると、恐縮しながら席に座った。当然ながら、その顔には見覚えがない。袖をまくった白いワイシャツに紺のスラックス、短く切られた髪は黒々としている。推定二十代前半、若手社員と言ったところか。 「……あの、何か…」 「いや。知り合いに似ている気がして」  思ったままを伝える。決して嘘ではない。何か言おうとした相手の前に、店のおばちゃんが立ちはだかった。 「中華そば、お待ち!」  運ばれてきた湯気を立てるどんぶりに、相手の顔が破顔する。まるで子供のような喜び方に思わず笑ってしまうと、恥ずかしそうに備え付けの割り箸を手にした。 「いただきます!」 「…いただきます」  釣られて声を出してしまい、箸と蓮華を取る。琥珀色のスープにメンマ、チャーシュー、ナルトと刻みネギにほうれん草。シンプルながらもうまいこの店は昼時になると大体満席になる。なので相席になるのはいつも通りなのだけれど、今日は少し勝手が違った。今日は仕事初めの憂鬱な月曜日。決まってこの店の中華そばを昼に食べたくなってしまう。憂鬱な気分も食べ終えた頃には吹き飛ぶから。 「おいしい!」 「そうでしょう?」  思わずご新規さんに声を掛けてしまう。常連の老婆心だと思って赦して欲しい。 「なんか、元気が出る味ですね」 「ええ。二日酔いにも効果覿面で」  いいぞ青年。もっと讃えたまえ。いつ店主と共に倒れても可笑しくないこの店の売り上げに、是非とも貢献してほしい。 「岩ちゃんまた若い子に吹っ掛けちゃってまぁ~!」 「おばちゃんの笑った顔程ではないよ」 「まったくもう!お客さん、悪いわねぇ」 「いえいえ、ほんとにおいしいでふね」  店の中に笑い声が広がっていく。この店に来たら最後、初回で既に常連の仲間入りだ。初めて食べたのに懐かしい、そんな美味い中華そばの店。  また一週間頑張るか、そんな気持ちになれる気がするだろう?
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