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里都には夫、飛鳥彦に言えない秘密がある。
それは、里都が通っているスイミングスクールの担当コーチである永瀬と肉体関係を持っていること。
永瀬は、里都より少し歳上の若きインストラクターで、見た目も性格も夫とは真逆のような位置にいる男だ。
水泳専門のコーチらしい肩幅が広く美しい筋肉がついた肉体はとにかく水を弾くような若さに満ち溢れていて、出会った瞬間から里都はたちまち永瀬の虜になった。
もちろん、飛鳥彦の事を蔑ろにしているわけではない。
飛鳥彦の事は最愛の夫として慕っているし、一緒に墓に入るなら飛鳥彦だと自信を持って言える。
しかし、飛鳥彦にはない永瀬の若さと性欲が里都がずっと感じていた欲求不満を解消してくれたのだ。
その味を覚えてしまった里都は飛鳥彦に永遠の愛を誓いながらもなお、トレーニングと称した永瀬とのセックスをやめられずにいる。
裏切りだとわかっている。
しかし、永瀬を前にするとどうしてもアソコが疼きめちゃくちゃにされたくてたまらなくなるのだ。
里都はドキドキとしながら送られてきた永瀬からのメッセージを読んだ。
内容はこうだった。
『今年の夏、親戚が別荘でパーティーをするため数日手伝いに行く事になりました。その間、スイミングスクールを休む事になります。スケジュールの調整をしたので確認してください。それで…もしよかったらなんですが、望月さんも一緒に行きませんか?パーティーには出席しないんですけど、近くに静かな海があるんです。観光地でもないから人も滅多に来なくて。そこで望月さんとゆっくり過ごせたらなと思ってます』
里都はそのメッセージを何度も何度も目を通した。
最初の文面はコーチとしての連絡事項だが、後半の内容は何度読んでも業務的ではない。
個人的な誘いだ。
永瀬との関係はいつもは週に数回通うスイミングスクールの中だけ。
口には出さないが、彼は里都とは他所で会ったり誘ったりしないと決めているものだと勝手に思っていた。
里都自身もそれに近く、永瀬は魅力的だが、割り切った関係を貫いてくれた方が助かるためそれに不平不満を感じた事はなかった。
しかし突然の永瀬からの誘いは、里都の心を大きく掻き乱すものだった。
さっきまで想像していた青空と降り注ぐ太陽に輝く海の映像に、永瀬の姿が追加される。
浅瀬で水を飛ばしながらはしゃぐ姿や、水滴のついた髪をかきあげる色っぽい姿など様々な永瀬が脳裏に浮かび上がってきた。
どれも魅力的で蠱惑的で、里都を誘惑するには十分すぎる妄想だ。
しかし、ハッと我に返る。
永瀬の誘いに心は揺らぐが、たった今その日は予定が入ったばかり。
飛鳥彦の妻としてパーティーに参加し、彼と避暑地を楽しむのだ。
人妻として、夫との約束を蹴って他の男と会うなど御法度。
すでに罪深いことをしている立場なのだが、そこはどうしても譲れなかった。
里都は慎重に言葉を選んで永瀬へ断りの返信をした。
飛鳥彦との約束がなければ行けたかもしれないという残念な気持ちもしのばせて…
しかし気になるのはさっき飛鳥彦から受けた誘いと酷似している事だ。
別荘、パーティー、近くにある静かな海…
その謎は現地に着いてからわかった。
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