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その後の里都といったらとにかく気が散漫としてパーティーどころではなかった。
近くに永瀬がいるかもしれないと思うと気持ちが逸り、無意識に彼の姿を探してしまう。
しかし、その一方で飛鳥彦の良き妻でいたいもう一人の自分が欲に負けそうな里都を制してきてもいた。
いつもは夫の目の届かない場所だからいいという理屈も不謹慎だが…とにかく今日は飛鳥彦が近くにいるため永瀬と会うのはリスクが高すぎる。
万が一バレてしまったりしたら、それこそ里都の人生はお終いだ。
でも…と里都は言い訳をした。
永瀬がいるとわかっていて、このまま会わないなんて無理だ。
淫らなことを覚えさせられた里都の肉体は、永瀬が近くにいると知ってからずっと疼いてしまっている。
悶々としながら時々話しかけてくる客人たちに愛想笑いを浮かべていると、飛鳥彦が里都を呼んできた。
「里都、僕は今から彼らと仕事の話をするから海にでも行ってきたらどうだい?婦人方は日差しが恐いから遠慮するそうだが、ここにいても気を遣うだけだろう?里都がここにいたいならそうしても構わないけどどうする?」
飛鳥彦の提案に、里都は心の中で跳ね上がった。
もちろん行くに決まっている。
しかし、淑やかで夫想いの妻である立場も忘れてはいけない。
里都は今にも飛び出していきそうな足をぐっと抑えつけると飛鳥彦に向かって微笑んだ。
「ありがとう飛鳥彦さん。実は少し気分転換したいなって思ってたところ。ダメだね、普段あまり沢山の人とお喋りする機会がないから緊張しちゃって…」
「緊張するのも仕方ないさ。その代わり里都はいつも家を守ってくれているだろう?僕はいつも君に感謝してるんだよ」
飛鳥彦はそう言うと、優しい眼差しで里都を見つめてくる。
世の中には妻を家政婦のように扱い、家事をしてもらって当たり前のように考えている夫もいるという。
しかし飛鳥彦はこうやって里都の全てを肯定し感謝を伝えてくれる完璧な夫だ。
その度に自分はなんて愛されてるのだろうかと充足感に満たされる。
でもごめんなさい…
里都は密かに心の中で謝った。
今から俺、あなたじゃない男に抱かれに行くんです…
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