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BL団地妻シリーズ〜in the beach 〜渚で弾ける官能飛沫〜
「海…?」
冷房の効いた涼しい部屋で、望月里都は首を傾げた。
長めに伸ばした前髪がサラリと額を流れていく。
しっかりとした大人の風貌を持ちながらも、あどけない仕草をする里都を愛おしそうに見つめながら、望月飛鳥彦はうんと頷いた。
「取り引き先のお得意様が◯県に別荘を持っていてね、友人を集めてパーティーを行うらしいんだ。それでよかったら夫婦で来ないかと誘われたんだよ。別荘から海までは徒歩一分。田舎の避暑地で観光地でもないからほぼプライベートビーチに等しいらしい」
「へぇ…別荘に海か…」
夫飛鳥彦の話に、里都の脳内にはたちまち常夏の海の景色が広がる。
突き抜けるような青空に太陽に照らされた水面がキラキラと光る風景を想像するだけで、なんとなく胸が躍りだす。
最近猛暑のせいでどこにも出かけることができなかったから余計にわくわくするのだろう。
それに、飛鳥彦がパーティーに里都を連れて行く事を決めてくれたのも嬉しかった。
男性同士の結婚が認められた世の中になり、偏見の目で見られることが少なくなってきたとはいえ、まだ完全に理解されたわけでない。
特に飛鳥彦と同年代やそれ以上の年代には同性婚に反対する者も多いと聞く。
二十代の里都とは生きてきた時代が全く違うのだから仕方がないことなのだが、同性と結婚した飛鳥彦の体裁を考えるとどうしても控えめにならずにはいられなかった。
しかし、飛鳥彦は今回取り引き先のお得意様という大事な人たちの前に里都を連れていくと決めてくれた。
つまり、飛鳥彦は里都に飛鳥彦の妻として堂々と参加していいと言ってくれたようなものだ。
「どうだい?」
胸躍らせる里都の隣で飛鳥彦が優しげな笑みを浮かべる。
歳を重ねた者だからこそ醸し出す事ができる大人の余裕のある微笑みだ。
「飛鳥彦さんと一緒に行きたい」
時を移さず返事をした里都に、飛鳥彦は微笑んだままうんうんと頷いた。
「それじゃあ先方に連絡してくるよ」
飛鳥彦はそう言うと、スマホを持ち部屋を移動する。
「あ〜もしもし、例の件だけど…」
その声を聞きながら、里都の頭はすっかり別荘と海のことでいっぱいになった。
海に入るならそれなりの準備がいる。
ビーチサンダルに陽射しを遮る帽子やサングラス、シュノーケルもいる。
あ、新しい水着もほしいな…
だって持ってるのといえば、通っているスイミングスクールで使う競泳水着だし…
と、その時だった。
里都を現実に引き戻すかのようにポケットに入れていたスマホがブルッと振える。
画面を見た里都は思わずスマホを胸に伏せた。
隣の部屋にいる夫の気配を慎重に窺う。
ぼそぼそと聞こえてくる音からして、まだ通話中らしい。
里都は恐る恐るスマホを胸から離すと素早く操作した。
連絡を寄越してきたのは永瀬一暉。
里都の通うスイミングスクールのコーチである。
しかし彼はただのコーチではない。
里都から人妻という立場を奪ってしまう危険であり且つ魅惑的な存在なのだ。
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