野良犬は嫉妬する、の巻

6/14
前へ
/243ページ
次へ
𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍 「どうしたもんかな…」 どうにか一週間の勤労を終えた華金の夜空を見上げながら、ぽつりとひとりごちる。誰かと飲みに行きたい気分だけど、最近は気軽に今夜飲もうと誘える相手があまりいない。 濃紺の夜空の奥には小さな星が見えた。 随分と冷えるせいか、今夜は空気が澄んでいる。 結局自宅の最寄りまで戻ってきた私は行きつけの店の暖簾をくぐり、馴染みの店主に軽く挨拶して案内されたカウンター席に座った。 普段通りのルーティンでまずはビールとオリーブの盛り合わせを頼み、身に付けていたコートとマフラーを荷物カゴの中に仕舞う。クラフトビールの種類が豊富でおつまみが美味しいこの店は、壁一面が打ちっぱなしのコンクリートで、武骨でインダストリアルな雰囲気の内装がおしゃれなのに落ち着ける。 「二週間ぶりぐらいだっけ、柑菜ちゃん」 「あー…先々週も来てました?」 「また覚えてないの?あの日は店に来た瞬間からかなり酔ってたからな。ここですっげえ格好良い男の子に散々絡んでたよ」 多分これ、サクと出会った夜の話だ。 髭面に長髪の店主がテーブルにグラスを置いた。 成田(なりた)さんというらしい店主は三十代後半ぐらいの男性で、所謂サブカル系とかアーティスト系とかいう感じの個性的な見た目をしているが、前職を聞いたらメガバンクの銀行マンだったらしいので人は見掛けによらない。 「その格好良い男、何者です?」 「さあ?店には来たのは初めてだ思うけど」 あんな美形一回来たら絶対忘れないと思うからと成田はのんびり言って、「飯どうする?軽めなら適当に何個かつまみ盛るし、腹減ってるならパスタでも作ろうか」と聞いてくれるので、パスタを所望することにした。
/243ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2025人が本棚に入れています
本棚に追加