野良犬は嫉妬する、の巻

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「最初は柑菜ちゃんが格好良い格好良いって上機嫌に絡んで相当うざがられてたけど、なんか途中から攻守交替してめちゃくちゃ口説かれてた気がする。いや、俺も他のお客さんと喋ったりしてて詳細はわかんねえけど」 「その男、今うちに住み着いてまして」 「は?どういうこと?」 成田はきょとんとして作業の手を止めた。 そんなの、私が誰より一番聞きたいと思ってる。 どうやらこの店で私から声を掛けたのが出会いらしいサクの素性について、私は結局未だになにも把握していない。細長いグラスに注がれたビールを景気よく呷りながら、これまでの経緯を成田に説明して聞かせる。 「え、それ普通に大丈夫なの?通帳盗まれたり盗撮されたりしてない?」 「貴重品は気を付けてるけど盗撮か!」 「正直柑菜ちゃんの動画なら売れるよ、高値で」 「それ考えてなかったまじか…」 いやでも、アイツの見た目を駆使すればそれこそ女なんか幾らでも引っ掛け放題だろう。それなのに敢えて私に執着してくるのが盗撮のためというのは考えにくい。 「やっぱり現実的なのはロマンス詐欺か…」 「にしてもなんで柑菜ちゃんよ?」 「三十前後で結婚焦ってる女は判断力が鈍ってる可能性高いし、まあ割りと狙い目かなって私が詐欺師なら考えますね…」 自分で言ってて普通に悲しくなってきた。 うあーんとテーブルに突っ伏しながら泣き真似をする私に、成田は「詐欺師が柑菜ちゃんみたいにハードル高そうな美人敢えて狙わないでしょ」と慰めてくれるので、さすが接客業の男は口八丁が得意だなと内心で思う。
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