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Introduction
男のくせに綺麗な手だった。
熱にぼやけた頭で場違いにそんなことを思う。
絡みついてくる男の舌先からはさっきまで舐めていたぶどうの飴の味がして、甘ったるくてかなわない。絵画みたいに美しく整った顔をして、まるで飢えた狼のように貪欲で獰猛なのは、若さゆえなのだろうか?
「余計なこと考えんな」
不機嫌な声で囁きながら、男が私を抱き寄せる。
引き締まった体はしなやかで妖艶だ。
頭上から降るシャワーのお湯がキスの合間の呼吸を邪魔する。男の手が私の胸元を這い、そっと先端の蕾を指で刺激した。それにぴくんと背筋を強張らせると、喉の奥で嘲笑が転がる。
白々しい蛍光灯の光と人工的な温水のぬくもりの中で抱き合った。背中に押し付けられた壁のタイルだけがひんやりと冷たくて、それがかろうじて理性を繋ぎ止める。
愚かしいことをしている自覚が酔い心地の狭間で薄っすらと浮かび上がった。けれどそれはこの非生産的で不毛な情事の妨げになるほどではない。
今まで散々使い古してきた自分の体に自愛の念など露ほどもなく、他人に暴かれることに対する躊躇いもいつの間にか消えた。歳を取るということが一概にそういうわけではないけど、私の半生は不純だったので。
「まじでめちゃくちゃ綺麗」
「─…、…ッ、」
「こんな酔って無防備に笑って、いつも男のこと持ち帰って遊んでんの?」
男の薄い唇が挑発的な弧を描く。淡白そうな瞳が不遜に眇められ、私を見下ろしていた。その奥に宿る熱はあられもないほど欲情していてちょっと辟易してしまう。
清潔そうな顔をして、嫌な男。
私が可愛がるはずだったのに、心底腹立たしい。
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