八方塞がり

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 兄貴と瑠衣君が家に来る日の前日、何故か兄貴だけ先に帰ってきた。その為、最寄り駅まで瑠衣君を迎えに行く。  電車が着く時間を聞いていたから、それに間に合うように駅に着いた。改札の前で待っていると瑠衣君が朗らかに笑って手を上げた。 「待たせてごめんね」 「ううん、待ってないよ」  何で瑠衣君スーツ着てるの? スーツって窮屈じゃないのかな? 似合ってるけど。きっちりした格好してると、足の長さが際立ってて羨ましい。 「行こうか? こっちだよ」  瑠衣君は歩きながら落ち着かない様子で目を忙しなく彷徨わせている。 「どうしたの? 体調悪いとか?」 「そうじゃないよ。親御さんにご挨拶するから緊張しちゃって」  友達の親に会うくらいでこんな緊張する?  ……もしかして、母ちゃんが怖いって話したからこんなにビシッときめて、緊張してるの?  瑠衣君は掌に人を書いて飲み込んだ。それを何度も繰り返す。人そんなに飲み込んで胸焼けしない? 「あのさ、大丈夫だよ。母ちゃん怒ると怖いけど、怒ってなければ普通のおばさんだし。あっ、俺がおばさんって言ってた事黙っててね。怖いから」  口元で人差し指を立てると、瑠衣君の表情が和らいだ。良かった。少しはリラックスできたかな? 「俺と爽君の秘密だね」  瑠衣君も人差し指を立てて口元に添える。  家の前に着くと瑠衣君は大きく深呼吸をして頷く。完全に母ちゃんにビビってるよね。 「大丈夫大丈夫! 母ちゃん怖くないよ」  扉を開けて、ただいま、と家の中に向かって大声を出す。 「いらっしゃい。京介と爽がお世話になってます」  ニコニコとよそ行きの顔で母ちゃんが出迎える。 「初めまして、都築瑠衣です。これ、つまらないものですが」  お礼するのはこっちなんだから、お土産なんていらないのに。母ちゃんが礼を言って受け取ると、瑠衣君はおじゃまします、と靴を脱いで上がる。そして床に膝を付いて背筋を伸ばして足の上で拳を握った。  母ちゃんは目を瞬かせ、俺は靴を履いたまま瑠衣君の姿勢の美しい背中を眺めた。  兄貴が少し扉を開けてこちらを覗いている。何してんの、あの人。 「爽君とは出会ったばかりですが、添い遂げる覚悟で交際させていただいてます」  母ちゃんが俺にまん丸になった目を向ける。俺は勢いよく首を振った。添い遂げる覚悟で交際って何? ドアの隙間から兄貴が口元を押さえて体を震わせている。
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