八方塞がり

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「都築瑠衣です!」  顔を真っ赤にしたイケメンは大きな声でなぜか俺に向かって唐突に自己紹介を始めた。顔を赤くする程大声出さなくても聞こえるのに。  ポカーンとしている俺と兄貴を気にする事なく、名前を聞かれた。 「あっ、大谷京介の弟で爽です」  促されるまま名乗れば、よろしく、と手を握られてブンブンと振られる。  戸惑いながら兄貴を見るとこちらに向かってニヤリと意地の悪い笑みを向けるだけ。 「よし、爽。今日は泊まっていいぞ」  急に態度を変えた兄貴が気持ち悪い。よく来たな、と笑顔を向けられて顔が引きつる。何か悪いことでも思いついたような爽やかな笑顔だ。  部屋に通されてカーペットの上に3人座る。兄貴と都築さんは昼間っから酒を飲んでいる。俺は水。ジュースはないと言われたから水。 「それで? 何で母ちゃん怒らせたんだ?」 「へそピがバレた」 「へそピ開けたの? ちょっと見せろ!」  膝立ちになり、服の裾をめくって腹を見せる。 「ん? コレ、開けてから大分経ってねーか?」  兄貴にツンツンされ身体を捩る。くすぐったい。 「うん、内緒で開けたんだけど、今日起こされた時、腹出して寝てたみたいでバレた。『私の大事な身体に勝手に穴を開けるな! そんなに腹に穴開けたければ、私の拳で開けてやるよ!』って目がマジだったから逃げてきた」 「母ちゃんならやるな」  その光景が目に浮かぶようで、兄貴は苦笑いを浮かべる。  兄貴と話している間も視線が痛い。都築さんはガン見しすぎじゃね? 他人の腹なんて見ても楽しくないだろ。そんなにへそピ珍しいのか? 「ん? お前も触る?」  兄貴が都築さんに聞くとコクリと頷いて指先が触れる。フェザータッチでへそ付近を滑る指に背筋がゾクリとして身体が跳ねた。 「んっ……」  漏れ出た声に顔が赤くなる。何、今の! 「あっ、ごめん。爽君の了承も得ずに触って」 「いや、別に大丈夫っスけど……。ちょっとくすぐったいっス」  捲っていた服を下ろすと兄貴が腕を体の前でクロスして、ブー、っと唇を尖らす。唾が飛んできて顔を顰める。もう酔っ払ってるのか? 「お前そのよそよそしい話し方禁止! 瑠衣にはタメ口で! あと、ルイルイとかルイちんとかルイたんとか、あだ名で呼ぶこと!」 「いや、何言ってんの? 初対面の年上にそんな事できるわけないじゃん! 都築さんは兄貴にいじめられてんすか?」  前半を兄貴に後半を都築さんに向ける。都築さんは肩を落として俯いた。やっぱりいじめられてるんだ。弟として説教してやらなければ! 「俺、タメ口で喋ってほしい……」  微かに聞こえた声に耳を疑う。 「ほら、爽がよそよそしいからすねちゃった」 「えっ?! 俺のせい? ……えっと、ごめんね瑠衣君」  兄貴の考えたようなあだ名で呼ぶ事は出来なかったが、顔を上げて表情を明るくしてくれたから良かったのか?
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