八方塞がり

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 小鳥の囀りとかではなく、声をひそめながら話す兄貴と瑠衣君の声で目が覚めた。瞼を持ち上げると、2人が俺の傍らに座って顔を覗き込んでいて、驚き過ぎて一気に覚醒した。 「な、何?」 「いや、寝顔アホ面だなーっと思って」  兄貴がスマホを向ける。画面には口を半開きにして涎を垂らし、胸近くまでTシャツが捲れ上がり、ボクサーパンツ丸出しの俺が写っていた。 「待って! 消して!」  真っ赤な顔でスマホを奪い取ろうとするが、立ち上がって手を挙げられるとどうしようもない。兄貴を掴んで手を伸ばしても届かない。 「俺の言う事聞くなら消してやる」 「……聞いてから考える。その写真の方がマシな事だったら嫌だし」 「よし、じゃー、そこに座れ」  ベッドの上であぐらを描く。シングルベッドは男3人を乗せてギシギシと悲鳴を上げた。 「来週の土曜にも泊まりに来い」 「それは無理!」 「何の予定が入ってんだ?」 「その次の週からテスト期間に入るから勉強すんの! 兄貴のパシリしてる暇ないの!」 「そうか、ここに優秀な家庭教師がいるぞ? 来るだろ?」  瑠衣君の肩を叩く兄貴。まずは本人の意思を確認しろ。 「来ないよ。瑠衣君に面倒な事押し付けるなよ」 「俺で良かったら教えるよ?」   瑠衣君が身を乗り出す。勉強好きなのかな? 「でも、見てもらってもカテキョー代なんて払えないよ?」 「いらないよ。それに、昨日京介に短パンもらったし」 「それ、兄貴がいらないから渡したやつだよ」  ダルダルな短パンは報酬になんてならない。自分の時間を潰すような価値なんてない。 「それなら、爽君が今度一緒に甘い物食べに行ってくれると嬉しいな」  甘い物って男1人では食べに行きにくい。瑠衣君には食べに行く友達がいないのか? 瑠衣君が声を掛けたら飛びついてくる女の子なんて多いだろうに。それとも瑠衣君が声を掛けたら誰が行くかで争いでも起きるのか? イケメンも大変だな。 「うん、そんなんでよければ。それで? 兄貴は何が目的なの? 何で俺を呼びたいんだ?」 「可愛い弟に来て欲しい、って理由に決まってるだろ」 「……ありえない」  鋭利な視線を向けるが、兄貴は口角を上げた。絶対に何か企んでる! 「じゃー、待ってるからな」 「分かったよ。本当に来週来たら消してくれるんだよね?」 「おう、男に二言はない」  いい笑顔で親指を立てられても不安しかない。
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