八方塞がり

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「じゃあまた来週ね。俺、そろそろ帰る」  ジーンズを履いてダルダルのTシャツを脱いだ。兄貴が手をこちらに向けるから渡す。それを瑠衣君に、やる、とまた兄貴が渡した。 「貰っていいのか?」  パッと顔を明るくする瑠衣君に、兄貴は大きく頷いた。 「待って! 俺、今着てたんだよ? 着古した服が欲しいにしても、せめて洗ってから渡そうよ。迷惑だから」 「洗ったら意味ないだろ」 「何で?!」  兄貴が当然のように言うが、その意味が分からない。 「瑠衣君、それちょーだい。洗濯機に入れてくるから」 「えっ? このままでいいよ?」  瑠衣君が体の後ろに隠すから、瑠衣君の後ろに手を回す。片手で体を掴んで逃げられないようにした。瑠衣君は急に膝を抱えて、待って、と顔を膝に隠す。耳がすごく真っ赤だ。 「爽君、服着て。勃った……」 「ん? 座ってるじゃん」  よく分からないが、言われた通り服を着た。体を小さくしている瑠衣君をどうしたらよいか、と兄貴に目を向けるが、腹を抱えてヒィヒィ言いながら笑ってる。 「ねぇ、2人とも大丈夫? もしかしてまだ酒抜けてない?」  目尻を拭いながら兄貴が首を振った。 「いや、大丈夫。酒じゃねーから。瑠衣のことは俺に任せて帰っていいぞ。母ちゃんも1回寝たら怒り治ってるだろうしな」 「あ、うん。分かった。瑠衣君、来週よろしくね」  瑠衣君は少しだけ顔を上に向けてくれた。顔は真っ赤で目が潤んでいる。 「こんな情けない格好でごめんね。駅まで送りたかったけど、今は無理そう。また来週ね」  道は分かるのに、送ってくれようとするなんて律儀な人だな、と思う。何で無理で、ずっとうずくまってるかは謎だけど、兄貴が任せろと言ったのだから大丈夫だろう。  手を振って家に帰った。  母ちゃんの機嫌も治っていたが、次の日また腹を出して寝ていたようでブチギレられた。つなぎの寝巻きを買おうと決意した。  更に次の日に思い出す。結局あの伸びきったTシャツはどうなったのだろうか、と。
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