八方塞がり

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 電車に乗って1時間。そこから歩いて20分。一人暮らしをしている5歳離れた兄貴の住むマンションに着いた。  ちょうど出ていく住人がいたから、エントランスでインターホンを鳴らさずに入る。  5階の右端、501のインターホンを鳴らした。  ややして扉が開かれる。  ……誰、こいつ?  出てきたのは兄貴ではなく、全く知らないツーブロックのイケメン。  目を瞬かせてしばしの硬直。 「ちょっと待ってて」  イケメンは扉を閉めた。  なぜ待たなければならないのか?そしてここは兄貴の部屋ではなかったのか?  部屋番号を確認するが、やっぱり501。もしかして俺の知らないうちに引っ越した?兄貴に確認しようとポケットからスマホを取り出した。  部屋の中からドタドタと大きな足音がこちらに近付いてくる。 「俺に何か用かな? 子猫ちゃん」  扉を開き、こちらに流し目を向けて甘ったるい声でアホなセリフを吐いたのは、兄貴だった。 「は?」  虚ろな目を向けて、そんな一言が勝手に出てしまったのは仕方のない事。  俺を確認した途端、兄貴は眉を跳ね上げて舌打ちした。 「おい! 何が可愛い子が来た、だ。てめぇー、騙しやがったな!」  兄貴は後ろにいるイケメンの肩を掴んで勢いのままに揺さぶり始めた。 「宅配なら受け取って勧誘なら無視。可愛い子が来た時だけ呼べって言ったよな? 何でこいつのために俺のトイレタイム邪魔すんだよ!」 「えっ、だってかわい……」 「あ゛?!」  トイレから慌てて出てきてきたらしい兄貴は、トイレの水を流しに行った。せめて流してから出てこい。  可愛い子が大好きな兄貴だから、友人に揶揄われたようだ。なぜ自分に可愛い子が訊ねてくるのかと疑問に思わないのだろうか? ありえない事なのに。  兄貴の叫び声が近所迷惑になるだろうな、と部屋に入って扉を閉めた。 「おい、勝手に入るな!」 「いいじゃん! 泊めてよ」 「うるせー、ガキは家に帰れ」 「家に帰ったら母ちゃんにボコられるんだよ! 何でうちの母ちゃんあんなに怖えーの? 本当に俺の母ちゃん?」 「間違いなくお前の母ちゃんだ。なぜ怖いかって、昔特攻服着て箱乗りしてるような人だからだよ。今はスカスカな親父だって昔は立派なリーゼントできてたんだよ」 「親父の頭の事は言ってやるな!」  兄弟で言い合っているとイケメンが間に入ってストップを掛ける。そういえば存在忘れてた。
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