第一掛 生きてほしい

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「それで希美、なにを考えてたの?」  星那が唐揚げを頬張りながら尋ねてくる。逃がしてはくれないようだった。 「いやぁ特にこれと言ってはないけど…」 「黄昏てた的な?ちょっと意外」 「ますます珍しい」  私はいったいなんだと思われているのだろう。 「それ普段からやかましいってこと?」 「否定はしない。望月は思慮深い方ではないと思うしな。映え写真がどうのとか、メイクノリがどうだとか、そんな感じのことしか考えてないかと思ってた」 「それは同感」 「ちょっと」  軽く隣に座っていた春斗を小突く。ニヤニヤしながら、どこか嬉しそうだった。星那はそんな様子を微笑ましそうに見ていた。 「…なんとなくここに来て初めての夏だなぁって」 「あー。越してきてまだ1年経ってないもんな。8月の頭くらいに花火が打ち上がる大きなお祭りが近くであるよ。ちょうどあの山を背にしてみる感じ」  春斗が窓の外の山を指さしてそう言う。 「そうそう!結構有名で県外からも人がたくさん集まるんだ」 「へぇ…2人は毎年行ってるの?」 「んー、すごく混むからなぁ…小さい頃は行ってたけど家からも花火は見えるし、行ったり行かなかったりかなぁ」 「私もたまーに行くくらいかな」  2人の反応はどこか同じで、一大イベントも地元の人からすれば見慣れたものなのかもしれない。 「あと妙なジンクスもあるしね」 「ジンクス?」 「この辺って空気が綺麗だろ?流星群もよく見えるんだが、『流れ星と花火が重なったときに願いを込めるとなんでも叶う』っていうジンクスがあるんだ。実際は花火が明るすぎて流れ星なんて見えないし、重なったっていう表現も曖昧だしな」 「そんなジンクスに便乗して告白するーみたいな人たちも多いからねぇ」 「いいじゃん、ロマンチックで」  私の引っ越す前の地元にはそういうのはなかったから、純粋な気持ちでそういった。 「そうなんだけどねぇ。半分もうオカルトよ」 「実際叶った人とかいるの?」 「いないだろ。ファンタジーじゃあるまいし」  案外そういう話題が好きだった私からしたら少し残念だった。 「夢がないなぁ…。でもせっかくならそのお祭り行ってみたい」 「春斗、一緒に行ってあげたら?」 「えっ?」  星那から話を振られた春斗がチラッとこちらを見る。 「あー…どうすっか?」  肯定とも否定とも取れるように考える素振りを見せる春斗だが、その考えには集中できていないような目線の動きだった。  しかし当の私は、どちらかと言うと星那の発言の方が気になった。 「なんで?どうせなら星那も一緒に行こうよ」 「…んー」 「え、なにちょっと嫌なの?」 「いや、嫌なわけじゃないけど…」  星那がちらりと春斗に目線を向ける。 「…人混みあんま得意じゃないし」 「大きい休みの日は一緒に渋谷とか行くじゃない」 「まぁ…暑いし」 「……」 「夏なんだから当たり前じゃない?てかそれなら今年の夏は都内に出るのやめとく?」 「いやそれは…なんていうか……んー」 「……」  妙に歯切れが悪い。いつもスパスパものをいう性格の星那にしては珍しかった。春斗も微妙な顔で黙っている。 「カップル専用みたいな祭りだし行きにくいのよ」 「えー、そうなの?でもどうせならみんなで楽しみたいじゃん」 「…そうだよ、星那も行こうぜ」 「え?……まぁでも、うん。今年は考えとくよ。近くになったら予定合わせよ」 「やったー」  春斗が誘うと星那は頷いてくれた。8月の頭に予定が出来て、私のテンションがちょっと上がる。  そっか、有名な花火かぁ…楽しみだ。
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