扉~ゲート~

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「あ、すいません……、もう一回タッチしてください」  そう言われた女性は再度タッチした。すると今度はすんなり反応し、表示は青色へと変わってゲートは開いた。 「ありがとうございましたー!」  男性店員は、いわゆるサービス業でありがちな作り笑顔全開でお客を見送る。しかし、その女性はいつまでもゲートを出ず、振り返り、少し怪訝そうな顔をして、その男性店員へもの申した。 「……ねえ、お兄さん、これどうなのよ?」 「え? っと言いますと?」 「ここ、このゲートの退店方式っていうの? (わずら)わしいと思いませんか?」 「え、ええーと、そう言われましても……。あと、こういうのが、今は主流になりつつありますから」 「何でもそうよね? 今は電子マネーとかデジタル化。何でもデジタルデジタル。私はまだギリ行けるけど、お年寄りはとても付いていけないわよ。結局ね、あなた達は顧客目線がなって無いのよ!」 「ん? デジタル……、あ、IT化のことでしょうか?」  店員のその言葉は、要らぬ火に油を注ぐ形になった。 「なっ、あなたねぇ! ケンカ売ってますか!?」 「い、いえ! とんでもございません!」  僕は『まだ、若い店員だから仕方ないんじゃないか』と思い、その彼らの様子を袋詰めしながら見ていた。  今日の夕飯は、いつも通り半額値札シールが貼られた『からあげ弁当』と、『マカロニサラダ』。この組み合わせが何よりの至福なんだ。ついでに、いつもは買わないカロリーオフの発泡酒も買ってみた。お酒は滅多に飲まないけど、今夜は仕事帰りに綺麗な星空が見えたし、3連休前の金曜日だから、飲みながら歩いて帰りたいと思った。 「あの、お客様~! いかがなさいましたでしょうか?」 「あなた、店長さん?」 「はい! 店長の、イケダと申します!」  このスーパーの店長が来たらしい。背丈も高く、THE店長って感じのなかなか凛々しい男だ。例の女性は、もう一回こと細かくその店長へ説明を始めた。 「だからねー! とにかくゲートよ! このお兄さんにも言ったのよ! そしたら、この兄さんアイテー化だの、何なのと!」 「アイテー化? ああ、IT化でございますね?」 「ちょ、あなたも私をバカにするんですか!?」 「い、いえ! とんでもございません!」  一方、いつもよりゆっくりと袋詰めを終えた僕は、二人のやり取りを尻目に、レシートをゲートのセンサーにタッチした。そうすると、まさかの赤い表示。 「あ、すいません! もう一回お願いします」 「あ、はい」  先程の若い店員に促されて、僕はゆっくりとタッチし直した。すると今度はすんなり反応し、ゲートが開いた。 「ありがとうございました!」  クレーム対応をしていたのが嘘のように、彼はケロっとして僕を笑顔で見送ってくれた。  僕は「うん、確かに煩わしいな……」と、誰にも聞こえないように呟いて、ゲートを通ったのだった。
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