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その後。私は少年院行きくらいは覚悟していたが、何故か一切のお咎めなしで無罪放免になった。柳田が何かをした気がするのだが、いくら問い詰めてもアイツは何も吐かなかった。
両親には泣きながら引っ叩かれた。それからとても長い時間じっくりと話し合い、私たちは再び元の家族に戻った。・・・戻ることが出来た。
たかしが亡くなってしまったことを、しっかりと受け止めた形で。
「・・・」
バカまるだしのあざといポーズでキメ顔を晒す柳田の横に、両手でピースしている笑顔のたかしがいた。たかし本人に間違いなかった。間違えるはずがない。亡くなった日から、私の夢の中には必ずたかしが出てきた。たかしはあの頃と何も変わらない姿で、笑顔でこちらを見ている。
「・・・私ね、意識不明になっている時に、ちょっとだけ幽霊になったの」
私の横でスマホを覗き込んでいる柳田が、ポツリと呟いた。
「その時にね、なんでか分かんないんだけど、たかし君が亡くなってからもう十年くらい経ってるのに、私、あの子にあの時の告白の返事しなきゃって、そればかり考えてたの。でも私幽霊で、みんなに私の姿も声も届かなくて、なんかもう成仏しそうな気がするー、はよせなヤバイーってテンパってたら、物凄く頭の悪い間抜けの童貞に会っちゃってね・・。ソイツのおかげ、とは言いたくないし、実際全然違うんだけど、私、あの運動公園でたかし君に会うことが出来たの」
「・・・」
「たかし君はあの頃の姿のままだったよ。私、もう高校生になってるのに、それを少しも疑問に思わなくてさ・・。告白の返事で『ごめんなさい』って言ったら、『へんなま姉ちゃんはキープだから別にいいよ』って言われてキレて、テメェこのクソガキって言ったら、たかし君笑ってどこかへ走って逃げて行っちゃった。戻って来いクソガキ刺身にしてやるって地団駄踏みながら喚いていたら、たかし君クルって振り向いて、手を振りながらこう言ったの」
━━━ボクは元気でやってるから、お父さんとお母さん、それに菜々子姉ちゃんに『もういいからね』って伝えておいてね!!
私は堪えきれなくなって嗚咽を漏らした。何がもういいだ、クソガキ。何もよくない。もういいなんてこと、何一つあるもんか。
柳田がそっと私の頭を撫でた。
「私、この話をどうやってななちに伝えようかずっと悩んでいたの。ななち超リアリストだから、たかし君に会ったって言っても絶対信じないだろうし、そんなこと言ったらななちのことをとても傷つけることになるかもしれないと思って。だから、そんな私の様子を見て、たかし君が手を貸してくれたんだろうね。私、軽く幽霊になってから、ぼんやりだけど『そういう』のが分かるようになったの。・・・たかし君、今ななちの側にいるよ」
私は顔を上げた。涙でボロボロになってよく見えない。そのボヤけた視界の片隅に、見知った小さな影を見た気がして、私は再び嗚咽を上げた。
カシャリ、という音がした。
柳田が勝手に私のスマホのロックを解除して、写真を撮っていた。柳田は画面を見ながら、満足そうに頷いている。
「ななち、たかし君とゆっくり話なよ。私は、退散するからさ」
柳田は私にスマホを手渡し、手をひらひらさせて部室から出て行く。スマホの画面を見た。涙でこれ以上ないくらい不細工な私の横で、たかしが私を指差して腹を抱えて笑っていた。このやろう、と思ったが、たかしの目にも涙が光っているのを見て、私は弟を許してやることにした。下校時刻を告げる校内放送が流れる。風紀委員として失格だけど、私はそれを無視する。
そして、長い長い時間、私は弟と話をした。
<了>
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