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差し出されたカフェオレを、私は躊躇わず受け取った。このやり取り、これで何度目だろうか。
「……なんか、あの時と同じですね」
「今回は喚き散らさないのか?」
「何を喚けばいいのか、それすらわかりません」
「そっか」
ボソリと相槌を返した先生が、その場へ腰を下ろす。だが、手に持った黒い缶コーヒーは未開封のまま、タバコを吸い始める様子もない。おまけに喋りもしない。
「……カンナと喧嘩しました」
先生を見下ろしながら、でも、あくまで独り言として呟いてみる。
「って言っても、一方的な感じですけど」
「今まで喧嘩したことねぇの?」
こちらへ顔を向けた先生は目を細め、すぐさま視線を戻した。
「初めてです。先生は、晴士さんと喧嘩したことありますか?」
「あるよ。てか話したいなら座れ。眩しいし、パンツ見られたとか言われたくない」
ポンポン、とコンクリートを叩く先生に応じて腰を下ろす。失礼な憶測は、まあ今はいい。
「……私はカンナが好きです」
「だろうね」
「でも、何でも話すってのは違うと思うんです」
先生の返事は単調だが、それが逆に、私から言葉を引き出していく。
「先生は晴士さんに何でも話せますか?」
「話せるよ」
「やっぱり、何でも話してこその親友なんですよね」
自分で結論付けておきながら、気持ちが沈んでいくのがわかる。
カンナに引け目を感じている部分があるのは事実だし、見栄を張りたくなるときもある。それでも私は、親友であり続けたい。
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