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一糸先生と別れて帰宅した後も、気がつくと、本当のことを打ち明けるべきかと何度も考えていた。
何日もかけて答えを出すほどの悩みではないのかもしれない。だがカンナと顔を合わせる勇気もなくて、文化祭準備の手伝いにすら行っていない。
一日はすごく長いのに、一週間経つのはあっという間だ。
「ねぇ芙由。夏休み暇ならさ、オオカワさんとこの焼き鳥屋でバイトしたら?」
それは、買い物帰りの母親からの唐突な提案だった。
リビングのソファでゴロゴロしていた私は、半時間は横たわったままの身体をのっそりと起こした。
「どゆこと?」
「さっきスーパーで奥さんに会ってね、お店忙しいからバイト募集しようかなって言ってたよ」
んん……。
「そうだね、行こうかな。詳しく聞いといてくれる?」
「合点承知! さっそく電話してみようか」
いそいそとスマホを取り出す母親をよそに、またソファへ寝転ぶ。
バイトがしたかったわけでも、お金が欲しいわけでもない。ただ、文化祭の準備に行っていない罪悪感を、何かで補いたかっただけ。
「芙由! ぜひ来て欲しいって言ってくれたよ、今日から」
「……きょう!?」
飛び起きて見上げた時計は、15時を過ぎていた。
キッチンへ疑いの目を向けると、コンビニに履歴書売ってるよ、と母は笑った。
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