21人が本棚に入れています
本棚に追加
カウンターに片肘を付いた一糸先生が、首を傾げるようにこちらを見る。
「部活組も講習組も、休みの日は来てるぞ」
「ああ! 文化祭の準備、夏休み中からやってたよねー。懐かしいなぁ」
このひりつく空気を晴士さんは感じないのか。
「文化祭って俺も行けるよね?」
「晴士うるさい」
「……私忙しいので、注文がないなら失礼します」
「待て。バイト何時まで?」
これは、私が負い目を感じているせいかもしれない。だが明らかに、今日の一糸先生には妙な威圧感があった。
「21時であがりです」
「あと5分くらいか。じゃあ、バイト終わったら例の公園で。すぐ済むから」
「え、逢い引き? 俺も行っていい?」
「だめ」
冷めた口ぶりで席を立った一糸先生が、そのまま店の外へと出ていく。
飲みかけのビールも、欠けたねぎまも置きっぱなし。唯一消えていたのは、灰皿横にあったタバコだけだった。
「今日ね、珍しくイットから誘われたんだ」
「えっ?」
「相談でもあるのかと思ったけど、体よく使われたみたいだね」
晴士さんはビールジョッキに手を掛けながら、なぜか嬉しそうに微笑む。
「……晴士さんは、そんな一糸先生をどう思いますか?」
「イットらしいと思うよ。らしく居てくれることが一番だよ、ほんと」
ん? さらりと返すわりに、どこか尾を引く言い方が気になった。
もう少し2人の話を聞いてみたい。そう思ったものの、私が切り出す前に、店主の声かけで定時を迎えてしまった。
「もしイットに苛められたら電話して。すぐに駆けつけるからね!」
「そのときはお願いします」
最初のコメントを投稿しよう!