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「落ち着いたか?」 中学の卒業パーティーから(のが)れ、街灯が灯る公園でピクニックベンチに突っ伏して数分。視界を遮るように置かれたのは、文字が逆さまのカフェオレだった。 私が体勢を戻すと、は向かい側へ回り、椅子を跨ぐように腰掛けた。 「3月も半分過ぎたのに夜はまだ寒ぃな。……暖とるもんでもなきゃ、くだらねぇ話に付き合うのしんどいわ」 気怠そうに頬杖をついたモッさんが、咥えたタバコへ火を点ける。暖をとるはずのブラックコーヒーは、開けるだけ開けて、ほったらかしにされていた。 「……なんで戻ってきたんですか?」 「は? そら戻るよ、コーヒー買いに行っただけなんだから」 そんな事情、私は知らない。 この人はただ、恋の終わりに偶然居合わせただけ。それが私にとっては一世一代の恋だったとしても、泣こうが喚こうが、初対面のおじさんには何の関係もないはずだ。 「そもそもさ、ビービー泣いてるガキを夜の公園に放置して帰れねぇだろ」 ――自分は大人ですから、って言いたいの? 嫌みは心で呟くだけにして、カフェオレに手を伸ばす。これ以上ガキだと思わるのも癪だし。 カフェオレを飲む素振りで、ちらりとモッさんをうかがう。 街灯に縁取られた横顔。モサモサヘアと同化しつつある黒縁メガネの奥を、2回、3回と盗み見る。 お礼のタイミングを逃した挙げ句、大通りから外れているせいで、車の音すら遠い。やけに長い沈黙のなか、カフェオレの熱が胸の辺りにじんわりと広がっていく。 焼き鳥屋の前でうずくまっていた私を助けたり、公園へ連れ出したり、この人は一体何がしたいのか。 ……私の恋愛を『くだらねぇ』と罵ったくせに。
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