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長いようで短かった春休みが終わり、入学式を経ての週明け、高校生活1日目。真新しい紺色の制服を着てリビングへ降りると、そこにはなぜか、ダイニングでトーストにかじりついているカンナが居た。
「カンナおはよ、早いね」
「んはよーっ」
飲みかけていたカフェオレのカップを手に取り、綺麗に染まっているオリーブ色のウェーブヘアを見下ろす。
カンナとは斜向いのご近所さんとして、先に支度が出来た方が迎えに行く、を丸9年繰り返してきた。階段下から元気な挨拶が聞こえてきても、自分の身支度を優先するくらいには“日常”になっている。
――でも、この光景は珍しい。
「カンナさ、なんで家でご飯食べてんの?」
時刻はまだ7時を過ぎたばかりだ。この時間に迎えに来るくらいなら、自分の家で済ませる余裕はあったはず。
「由美ちゃんが、イケメンの前でお腹鳴ったら恥ずかしいよーって」
「……それで? お母さんは?」
「洗濯物干してくるってさ」
「ふーん」
カンナの邪魔にならない程度に、ダイニングテーブルへ寄り掛かるように浅く腰掛ける。
……ど、どうしよう。意味がわからない。かといって、深く突っ込むのもメンドクサイ。
「芙由もう出れる?」
「準備は出来たけど……早くない?」
カンナは即答せず、ごくりと喉を上下させてから、カップスープをすすった。影を落とすほど長いまつげの下で、グレーの瞳がキラキラとこちらを見返す。
この不自然な間。もう既にイヤな予感しかしない。
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