この雪がとけたら

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「ましろに気づいたのは三日前。でもあなたが彷徨い始めたのはひと月前。さっき、ぶつかってみて、情報を少し読み取った。何日も、何日も、電車に乗って帰ろうとしてた。私はたまたまこの駅を三日前に利用して、あなたを見つけたんだけど、放っておけなかった」 「僕は、死んだの?」  由衣がうなづく。 「塾の帰りに、この近くの交差点で」  倒れそうなほどの衝撃があったが、何とか踏みとどまった。 「由衣は……何者?」 「何者でもない。迷ってる人に、乗るべき電車を教えてあげてる、ただの高校生」 「……説明が、おおざっぱだな、……由衣は」  笑おうとしたけれど、笑えない。  悲しくて切なくて泣きたいのに、涙も出てこない。 「僕が乗る電車は、どこへ行くの?」 「魂が帰るところ。おばあちゃんが、そういってた」 「――そっか」  線路は50メートルほど向こうまでしか見えず、その先は闇だった。 「仕方ないね」  涙の代わりに真っ白な雪片が頬を撫でた。砂糖菓子のように、ひらひら落ちて行く。 「両親に、謝ってから行きたかったな。今はそれだけが心残り」 「行けるよ」 「え?」 「さっき、家に帰りたいって意思表示したでしょ? だから」  由衣が掲示板を指さす。 『0時42分:本日の最終便(七見家経由)』と書いてある。  信じられなくて目をこする。 「あの言葉を引き出すのに、苦労したんだから。それから、さっき電話であなたのお母さんに、深夜を過ぎても起きていてください。ましろ君が、会いに行きますって、伝えておいたから」  何でもないことのように、サラッという。
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