3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ましろに気づいたのは三日前。でもあなたが彷徨い始めたのはひと月前。さっき、ぶつかってみて、情報を少し読み取った。何日も、何日も、電車に乗って帰ろうとしてた。私はたまたまこの駅を三日前に利用して、あなたを見つけたんだけど、放っておけなかった」
「僕は、死んだの?」
由衣がうなづく。
「塾の帰りに、この近くの交差点で」
倒れそうなほどの衝撃があったが、何とか踏みとどまった。
「由衣は……何者?」
「何者でもない。迷ってる人に、乗るべき電車を教えてあげてる、ただの高校生」
「……説明が、おおざっぱだな、……由衣は」
笑おうとしたけれど、笑えない。
悲しくて切なくて泣きたいのに、涙も出てこない。
「僕が乗る電車は、どこへ行くの?」
「魂が帰るところ。おばあちゃんが、そういってた」
「――そっか」
線路は50メートルほど向こうまでしか見えず、その先は闇だった。
「仕方ないね」
涙の代わりに真っ白な雪片が頬を撫でた。砂糖菓子のように、ひらひら落ちて行く。
「両親に、謝ってから行きたかったな。今はそれだけが心残り」
「行けるよ」
「え?」
「さっき、家に帰りたいって意思表示したでしょ? だから」
由衣が掲示板を指さす。
『0時42分:本日の最終便(七見家経由)』と書いてある。
信じられなくて目をこする。
「あの言葉を引き出すのに、苦労したんだから。それから、さっき電話であなたのお母さんに、深夜を過ぎても起きていてください。ましろ君が、会いに行きますって、伝えておいたから」
何でもないことのように、サラッという。
最初のコメントを投稿しよう!