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「電車が来た」
由衣の言葉で振り向くと、闇に溶けそうなダークブルーの列車が音もなくホームに滑り込んできた。
6両編成。行き先は書かれていない。
ドアが開くと、由衣が優しく背中を押した。
「両親と話せるのは5分だけ。そのあとはすぐに乗ってね。そうしないと、永遠に彷徨うことになる」
「どうしよう、何を話そう」
「大丈夫。言葉足らずでもきっと伝わる。親子だもん」
発車ベルが鳴りだした。
「手を出して」
僕が出した手を由衣が握った。久々に感じた温かさだった。
「ご両親と話す間だけ、ましろがましろの姿に戻るよう、おまじない」
由衣の手が離れていく。ドアが閉まり出す。
隙間から入り込んできた雪片が、僕の肩や手に舞い降り、ゆっくり溶けていった。
「またいつか、生まれ変わっておいで、ましろ」
それだけ、はっきり聞こえた。
ドアが閉まり、電車が動き出す。
遠くなっていく由衣の姿に、僕は深く頭を下げた。
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