この雪がとけたら

2/12
前へ
/12ページ
次へ
 次の瞬間、どん、といきなり衝撃を感じて、僕は態勢を大きく崩した。でも、地面に転がったのは自分ではなく、小鹿のように華奢な女の子だった。  白いボアジャケットにココア色のショートパンツ。同じ茶系のタイツに白いスニーカー。ショートボブの髪を揺らして僕を見上げる瞳は、大きく見開かれていて、泣きだされるのではないかと怖くなった。 「ごめん、大丈夫? ケガはない?」  できるだけ優しく声をかけて、手を差し出すと、その子はふわっと笑って、首を振った。僕の手は借りず、まるで重量を感じさせない身軽さで立ち上がった。 「大丈夫です。私こそ前方不注意でした。ごめんなさい」  頭一つ分、僕より背が低かったが、声も仕草も落ち着いていて、たいして年は変わらないような気がした。  落とした何かを拾い上げたあと、彼女はぺこりと頭を下げ、軽やかな足取りで、すぐそばのビルの角を曲がって、行ってしまった。  白くてふわふわして。まるでさっき舞い降りた雪のようだな、なんて恥ずかしいことを思いながら顔を伏せると、足元にコインロッカーのカギが落ちていた。  ぶつかったはずみに落としたらしい。  ゆっくり拾い上げると、僕は駅構内へ続くエスカレーターに乗った。  コインロッカーは、改札の手前のコンコースの隅にある。  時刻を確認するついでに、荷物を出しておこうと思った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加