3人が本棚に入れています
本棚に追加
駅構内には、思ったより人の行き来があった。
電光掲示板の横の時計は10時45分。思った通り、終電までまだ時間がある。
ちょっと早すぎたかな、と思いつつも、コインロッカーを開ける。
ビニールバッグにどっさり入れたテキストを取り出すべく突っ込んだ手は、驚いたことに、柔らかい何かに触れた。
「あれ?」
取り出してみると、バレーボールくらいの、真ん丸いぬいぐるみだった。
三角の耳も、丸い目も、尻尾も、まるで猫のようだが、なぜか超脇に小さな羽根がある。シルエット的にはフクロウだ。
なぜこれが僕のロッカーに――?
「あ」
すぐに思い至った。
さっきぶつかった女の子だ。
僕がカギを落としたように、彼女も落としたのかもしれない。そういえば、何かを拾う仕草をしていた。
僕が拾ったのは、あの子のカギで、だとしたらこれは、彼女のぬいぐるみだ。
あの子を探さなければ。
すぐに階段を走り下り、南口から飲食店の続く通りに出た。まだそんなに遠くに行っていないはずだ。
さっきと同じように、綿毛のような雪がゆっくりと地上に舞い降りる。
慌てているはずなのに、その光景に、どこか癒されていた。
腕や、ぬいぐるみの上に降りた雪の結晶は、いつまでも形をとどめている。
「あれ、さっきのお兄さん!」
振り向くと路地の真ん中で、今まさに探している当人が、笑顔で僕に手を振っていた。
安堵の息をついて僕も笑顔で手を振る。
横を通り過ぎていくサラリーマンらしき二人連れが、しきりに彼女をじろじろ見て通り過ぎるのが、ちょっと気になった。時折こっちにも視線を投げて、眉を顰める。
彼女が可愛すぎるから?
そんでもって僕に不つり合いだから?
勘違いです。恋人同士なんかじゃありませんよ。残念ながら。
「ごめん、もしかしたら、コインロッカーのカギが入れ違いになったのかも。これ、君の?」
「あ」
彼女は僕が思ったほど驚くでもなく、少し照れたように両手を差し出してきた。
最初のコメントを投稿しよう!