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「勝手にロッカーから出して、持ってきちゃってごめん。もう一度鍵を掛けたらよかったんだけど、どっちにしても僕のカギをもらうため、君を探さなきゃいけなかったし」
少し弁解をしながら、丸いぬいぐるみを彼女に手渡す。
なんでぬいぐるみをロッカーに入れたのか気になっていたが、きゅっと抱きしめて頬ずりする姿を見ていたら、そんな質問は無粋に思えた。
「何かのキャラクター?」
「これはネコフクロウ」
「ああ、確かに、猫とフクロウの合体系に見える」
「私の相棒なの」
屈託のない笑顔で僕を見上げる仕草は、さっきまでと違って幼く見えた。もしかして中学生?
「ねえ、こんな遅くまで一人でいて、大丈夫? 家の人は心配しない?」
「もう高1だよ。子ども扱いされたくないなあ」
「なんだ、ひとつしか違わなかった。僕、2年」
「ひとつ先輩かあ。ねえ、名前は? 私、終電まで時間つぶそうと思ってるんだけど、付き合ってもらっていい?」
先輩だと知りながら、しっかりため口だ。おまけに、勝手に終電まで付き合えと誘って来る。
今までに会ったことのないほどの人懐っこさだが、嫌な感じはしなかった。逆に、気持ちがほぐれていく。
ああ、自分は話し相手が欲しかったのだなと、この時ようやく気が付いた。
「七見ましろ」
僕が名前を教えると、「きれいな名前ね、この雪みたい」と言いながら、落ちてくる雪を手で受け止めた。
「私は藤沢由衣」
由衣って呼んでね、と笑うその手のひらの上、雪は一瞬で消えていく。
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