この雪がとけたら

4/12
前へ
/12ページ
次へ
「勝手にロッカーから出して、持ってきちゃってごめん。もう一度鍵を掛けたらよかったんだけど、どっちにしても僕のカギをもらうため、君を探さなきゃいけなかったし」  少し弁解をしながら、丸いぬいぐるみを彼女に手渡す。  なんでぬいぐるみをロッカーに入れたのか気になっていたが、きゅっと抱きしめて頬ずりする姿を見ていたら、そんな質問は無粋に思えた。 「何かのキャラクター?」 「これはネコフクロウ」 「ああ、確かに、猫とフクロウの合体系に見える」 「私の相棒なの」  屈託のない笑顔で僕を見上げる仕草は、さっきまでと違って幼く見えた。もしかして中学生? 「ねえ、こんな遅くまで一人でいて、大丈夫? 家の人は心配しない?」 「もう高1だよ。子ども扱いされたくないなあ」 「なんだ、ひとつしか違わなかった。僕、2年」 「ひとつ先輩かあ。ねえ、名前は? 私、終電まで時間つぶそうと思ってるんだけど、付き合ってもらっていい?」  先輩だと知りながら、しっかりため口だ。おまけに、勝手に終電まで付き合えと誘って来る。  今までに会ったことのないほどの人懐っこさだが、嫌な感じはしなかった。逆に、気持ちがほぐれていく。  ああ、自分は話し相手が欲しかったのだなと、この時ようやく気が付いた。 「七見ましろ」  僕が名前を教えると、「きれいな名前ね、この雪みたい」と言いながら、落ちてくる雪を手で受け止めた。 「私は藤沢由衣」  由衣って呼んでね、と笑うその手のひらの上、雪は一瞬で消えていく。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加