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「――はい。ええ……、そうです。お願いします」
いつの間にか由衣は、僕の家族と話をしていた。
番号を入れたあと、僕に変わってくれるものだと思っていたのに、当然のように会話し、さっさと電話を切って、スマホをポケットに入れた。
「え、由衣が話をしたの?」
「うん。お母さんが出た。ましろは終電で帰りますから待っててください、って。ちゃんと伝えた」
「あ……、そうなんだ。いや、まあ、いいんだけど、びっくりしてなかった? いきなり知らない女の子が電話してきて」
「びっくりしてた。みんな、最初はびっくりする」
「みんな?」
その問いかけには答えず、由衣は両手を差し出してきた。
僕はぬいぐるみをそっと渡す。
「母さん、怒ってなかった? 本当はさ、こんなに遅く帰ることは初めてなんだ。高2にもなって笑われそうだけど。生真面目なうえにで心配性な家族だから」
「大丈夫。怒ってなんかなかったよ。待ってるって言ってた」
また、僕をまっすぐ見つめ、真顔で言うから調子が狂う。
「本当に変わってるよな、由衣って。なんて説明したらいいのか分からないけど」
「うん。よく言われる」
そこでようやく笑ってくれた。
「ねえ、なんでましろは、まっすぐ帰らずに、ぶらぶらしてたの?」
由衣は急に痛いところをついて来た。
「会ったばかりの年下の女の子に話したい話じゃないかも。それより由衣の話を聞かせてよ」
「私の話は面白くないよ。普段は真面目な高校生。夜は両親とも夜勤で家にいないから、外の空気を吸いに、ふわふわ漂ってるだけ」
「なんだそれ。真面目な高校生は、早く寝なきゃ」
「さあ、今度はましろの番。ましろのことを教えて」
由衣は静かに聞いて来た。
なぜか今度は抵抗できなかった。
いや、違うな。
聞いてほしくなったのかもしれない。
ちっぽけで子供じみた嫉妬や不安や抵抗を、全部、すっかり、誰かに聞いておいてほしくなったのかもしれない。
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