3人が本棚に入れています
本棚に追加
遠くから電車の動き出す音が聞こえる。
電光掲示板は、『本日の運転は終了しました』という表示に変わった。
「ましろが乗る最終電車は、10分後に来るから」
静かな声が、横から聞こえた。
「僕が乗る、最終電車……」
「うん」
「君は乗るの?」
由衣は眉尻を下げて、首を横に振る。
「ましろが、乗る終電を間違わないように引き留めてた。ごめん」
「……そんな気がした」
何となく、気が付いていた。
でも気づかないふりしていた。
道行く人は、由衣しか見てなかった。
雪が降っているのに、僕だけ薄着で。なのに、寒くなかった。
由衣の手に触れた雪はすぐに溶けるのに、僕に触れた雪は溶けなかった。
コインロッカーに入れた荷物は、持ち主が取りに来ないと、撤去される。
「僕は、いつからここを彷徨っているんだろう」
由衣はぬいぐるみをぎゅっと抱く。
「ホームに降りてから話そう」
改札を抜け、階段を降りると、人影は全くなかった。
人影どころか、周囲にあるはずのビルの灯りも一切なく、ただ、線路とホームだけが暗闇に浮かび上がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!