この雪がとけたら

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 遠くから電車の動き出す音が聞こえる。  電光掲示板は、『本日の運転は終了しました』という表示に変わった。 「ましろが乗る最終電車は、10分後に来るから」  静かな声が、横から聞こえた。 「僕が乗る、最終電車……」 「うん」 「君は乗るの?」  由衣は眉尻を下げて、首を横に振る。 「ましろが、乗る終電を間違わないように引き留めてた。ごめん」 「……そんな気がした」  何となく、気が付いていた。  でも気づかないふりしていた。  道行く人は、由衣しか見てなかった。  雪が降っているのに、僕だけ薄着で。なのに、寒くなかった。  由衣の手に触れた雪はすぐに溶けるのに、僕に触れた雪は溶けなかった。  コインロッカーに入れた荷物は、持ち主が取りに来ないと、撤去される。 「僕は、いつからここを彷徨っているんだろう」  由衣はぬいぐるみをぎゅっと抱く。 「ホームに降りてから話そう」  改札を抜け、階段を降りると、人影は全くなかった。  人影どころか、周囲にあるはずのビルの灯りも一切なく、ただ、線路とホームだけが暗闇に浮かび上がっていた。
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